中東かわら版

№21 リビア:首都トリポリでの大規模な戦闘、反政府デモの活発化

 5月12日、首都トリポリで内務省傘下の民兵「安定支援機構」(SSA)の指導者が殺害されたことを発端とし、民兵間の大規模な衝突が発生した。

 SSA指導者のアブドゥルガーニー・キクリーは、トリポリ南東部のタクバーリー軍事基地での会合中に射殺された。同基地を本部とする国防省傘下の民兵「第444旅団」が殺害に関与したと見られる。SSAと第444旅団は、これまでもトリポリでの支配地域や経済的資源をめぐって競合してきた。また、SSAがダバイバ国民統一政府(GNU)首相に対して批判的な立場をとる一方、第444旅団は同首相に忠誠を誓っている。SSA・第444旅団間の対立が深まる中、第444旅団は13日、別の民兵「特別抑止部隊(SDF/RADA)」の掃討にも乗り出したことで、戦闘の範囲が更に拡大した。これを受け、トリポリ西部の沿岸都市ザーウィヤやナフーサ山地の町ジンターンから武装集団がSDFの救援に駆けつけ、第444旅団の作戦を阻んだ結果、戦闘は収束に向かった。

 混乱が続く状況下、第444旅団に肩入れするダバイバGNU首相に対する非難の声が上がり、トリポリでGNUの退陣を求めるデモ活動が活発化している。

評価 

 リビアでは2014年の紛争発生以後、国内勢力が東西に分裂して対立してきたが、2020年10月のジュネーブ停戦合意以後、両陣営で大規模な衝突は発生していない。一方、トリポリを拠点とする民兵間での戦闘は2022年と2023年にも発生し、治安面での不安要素となっていた。

 今回殺害されたキクリーは2011年のカッザーフィー政権崩壊後、トリポリのアブー・サリーム地区で民兵を設立し、影響力を拡大させてきた人物である。彼の部隊は、ハフタル率いる東部勢力に対抗する西部勢力連合「リビアの夜明け作戦」や「怒りの火山作戦」で中心的な役割を果たし、2016年の内務省への統合を経て、その後2021年に執行評議会(PC)によって国家機関SSAに転身した。SSAは第444旅団やSDF、第111旅団などの他民兵と共に、トリポリで強固な地位を築いてきたが、今般、SSAが指導者を失って弱体化したことで、民兵間の勢力バランスが崩れる結果となった。これにより、トリポリでの支配地域をめぐって各民兵が武装活動を増加させる恐れがある。

 また、ダバイバGNU首相が第444旅団や第111旅団に味方し、敵対するSSAやSDFへの攻勢を強めている状況は、民兵間だけでなく、トリポリ市民の間でも深刻な分断を作り出す可能性がある。この先、同首相がGNU退陣デモを強圧的に取り締まるような事態となれば、GNUへの統治手法に対して国外からの批判が強まり、「国連承認の政府」としてのGNUの正統性も大きく低下するだろう。

 

【参考】

「トリポリで民兵間の武力衝突が発生」『中東かわら版』2023年度No.67。

「トリポリでの大規模な武力衝突」『中東かわら版』2022年度No.79。

(主任研究員 高橋 雅英)

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