№19 イスラエル:欧州諸国等からのガザ攻撃批判に対して強い警告
2025年5月25日、イスラエル国防軍(IDF)はガザ地区での現下の軍事展開の目標を、2カ月以内に同地区の75%を占拠することと発表した。一方、3月以降のIDFのガザ地区での軍事展開に、欧州諸国は批判の声を強めている。先立つ19日、フランス、英国、カナダの首脳は共同声明で、ガザ戦争の終結、ガザ地区への援助受け入れ、パレスチナ国家樹立への道を開くようイスラエルに求めた。26日にはスペインのアルバレス外相が、マドリードで開催されたアラブ・欧州諸国の緊急会合に際し、イスラエルに対する制裁を検討すべきだと訴えた。翌27日にはドイツのメルツ首相が「イスラエルの軍事攻撃は論理性がない(=理解・支持できない)」と批判し、ワーデフール外相も近くドイツが何らかの対応をするために協議すると述べた。
こうした批判にイスラエルは強く反発している。ネタニヤフ首相は22日、上記の共同声明を発したフランス、英国、カナダの首脳は「ハマースが権力の座に留まることを望んでいる」と非難した。また26日には外交筋の話として、ダーマー戦略問題相がフランスのバロ外相に対し、国際社会がパレスチナを承認するならイスラエルは西岸地区の一部併合やあらゆる行動の合法化を図ることで応じると、個人的に警告を発したと報じられた。同様にサアル外相も英国、フランス等の外相に個別に連絡し、イスラエルに対して何らかの措置を講じるなら、イスラエルは西岸地区入植地における主権拡大を進めることになると警告した。
評価
ガザ地区での軍事展開への批判に対するイスラエルの苛立ちが次第に強まっている印象を受ける。ガザ戦争が継続する限り、アラブ諸国との間の緊張は想定内だとしても、そのアラブ諸国と欧州諸国がガザ戦争をめぐる問題で接近し、意思統一を図っている事態は、ネタニヤフ首相からすれば見通しが立ちづらいかもしれない。このためにネタニヤフ首相としては米国のトランプ大統領との関係を一層緊密なものとし、米国にパワーブローカーとして介入してほしいところだが、その米国とはイランへの対応をめぐって隙間風も報じられる。5月半ばに行われた電話会談では、トランプ大統領がイランとの外交的解決を望む旨をネタニヤフ首相に伝え、互いの意見の相違が目立ったと報じられた。
これらを背景に出されたイスラエル側からの警告(ハマース掃討を邪魔するなら西岸地区で強硬措置をとる)は、はたしてどの程度の確度で実現するか不明である。ただ、この警告が欧州諸国とアラブ諸国のイスラエルに対する心象をさらに悪化させることは間違いなく、イスラエルが国際社会での孤立を深める恐れがある。おそらくこれに最も苦慮するのはトランプ大統領であろう。
(研究主幹 高尾 賢一郎)
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