№17 トルコ:PKK解散と和平への模索、トルコの対クルド政策再構築に向けた課題
2025年5月12日、クルディスタン労働者党(PKK)は、5月5~7日にかけて開催した第12回党大会で、組織の正式な解散および武装闘争の終結を決定したと明らかにした。同党大会には、計232名の代表が参加し、決議でPKKの存在はその歴史的使命を終えたとされ、同党が「PKK」の名称で継続していた活動も終了する旨が発表された。この決定は、同年2月27日にPKK創設者のアブドッラー・オジャランが発表した「平和と民主社会への呼びかけ」を基礎とするもので、クルド問題の解決は今後、政治的かつ民主的手段によって追求されるべき段階に到達したとの認識が示された。
この動きと連動するかたちで、人民平等民主主義(DEM)党のペルヴィン・ブルダン、ファイク・オズギュル・エロル両議員は、5月18日にイムラル島の刑務所に収監中のアブドッラー・オジャランと面会し、その際に託されたメッセージを公表した。
オジャランは、まず、スッル・スレイヤ・オンデル議員(※5月3日に心臓発作により急逝したDEM党の中心メンバー)と、最期にもう一度話す機会が得られなかったことを深く悔いていると述べ、彼を「トルコにとっての賢者」と称えた。また、現在の展開は大規模なパラダイム転換を意味しており、トルコ人とクルド人の関係はこれまでとは根本的に異なる次元に入ったとした上で、「壊れた兄弟関係」の修復には、相互の尊重に基づく新たな「兄弟の法」の枠組み、すなわち新たな社会契約の構築が不可欠であると主張した。また、「兄弟は争うこともあるが、互いなしに存在し得ない」という、関係性の本質に言及しつつ、破壊された道や橋の再建、そして両民族間の和解を妨げる罠や障壁の除去を進めていると述べた。
さらにオジャランは、自身および自らが主導する和平と民族間の和解に向けた取り組みに対して、多くの知識人から寄せられた激励と連帯の意に謝意を示し、それらの知識人層を代表する存在として、フランスの哲学者アラン・バディウと、スロヴェニアの哲学者スラヴォイ・ジジェクの名を挙げた。
エルドアン大統領は、PKKの解散宣言を受け、「テロのないトルコ(Terörsüz Türkiye)」の実現に向けて重要な一歩を踏み出したと評価し、分断工作や偏見に抗して国家として前進していく姿勢を強調した。
他方、与党と協力関係にある民族主義者行動党(MHP)のバフチェリ党首は、病気療養から公務に復帰した直後の5月5日、故オンデル議員への弔意を表するため、DEM党本部を訪れた。さらに、同月18日には、「テロのないトルコ」プロセスを制度化する一環として、大国民議会(TBMM)に調査委員会を設置することを提案し、立法府レベルでの包括的な対応を呼びかけた。
評価
PKKは今般の声明で、解散の実施過程はオジャランによって指導・遂行されることを前提に、組織構造を解体し、武装闘争という手段および、「PKK」という名称の下で行われてきたすべての活動を終了すると表明した。しかし、政府側は、約5000~6000人と推定される戦闘員の処遇や、オジャラン自身が武装解除で主導的役割を果たすために必要な法的措置(「民主政治活動の権利保障」や「希望権(umut hakkı)」の適用)といった、いずれも和平協力への見返りと位置づけられる諸課題について、未だ具体的な対応策を提示していない。加えて、過去の和平交渉の決裂を踏まえ、PKKの完全な非武装化が達成されるまでは、交渉には応じないとの立場を堅持している。このため、最終的に武装解除と組織解体が実現するかどうかは、なお不透明である。
今回、PKKがオジャランの呼びかけに応じた背景には、単なる戦略的撤退というよりも、シリア、イラク情勢の構造的変化と、トルコ国内における政治的再編成が重なったという事情がある。とりわけ、2024年12月にアサド政権が崩壊し、トルコがシャラ暫定政権およびシリア民主軍(SDF)との三者枠組を通じてシリアで「脱武装・再統合」プロセスの主導に乗り出したことは、PKKにとって軍事的選択肢が大きく制限される状況を生み出している。
さらに、PKKが活動拠点を構えるイラク北部では、クルディスタン地域政府(KRG)のバルザーニー大統領がPKKと一線を画す姿勢を明確にし、シンジャール山脈やマフムール難民キャンプなどの地域でトルコとの対テロ協力を強化し始めたことも、PKKにとって後背地の喪失を意味する。
こうした状況の下、PKKはオジャランのカリスマ性と象徴性を再び前面に押し出すことで、反政府武装組織から平和的な政治主体へと脱皮し、生き残りを図ろうとしていると考えられる。だが、PKKの解散実現への道のりは、容易ではない。
第一に、PKK側の問題である。解散が宣言されたとはいえ、組織内で意思統一が完全に図られているわけではなく、今後のプロセスにおける懸念材料となっている。とりわけ、武装闘争の継続を主張し、オジャランの和平志向および民主化路線に慎重な姿勢を示してきたマフムート・カラユラン(いわゆるカラユラン派)をはじめ、一部の幹部が依然として懐疑的な態度を崩していない点は、今後の行方を見極めるうえで注視すべき要素である。
第二に、トルコ側に起因する問題である。PKKの活動の主戦場はトルコ国内であるが、組織の本拠地はイラク北部にあり、シリア北東部にも武装部隊を擁する。こうした国外の部隊の処遇については、国際的な監視や仲介の枠組みが構築されておらず、トルコ単独での対応には限界がある。
また、PKK戦闘員の社会復帰や政治参加に向けた取り組みに関しては、現行の国内法制では不十分との指摘がある。特に、若年層や末端の戦闘員の社会復帰は、PKKの再武装を防ぐうえでも不可欠であり、今後、テロ対策法や政党法の改正を含む法的枠組みの整備が求められる。それらに加え、組織からの離脱者や地域住民との間に信頼関係を築く努力と、長年にわたり反PKK感情や根強い不信を抱いてきた一般国民との間でも、包摂と和解に向けた社会的合意の基盤を形成することが肝要である。そのためには、政府側だけでなく、PKK側にも過去の武装闘争への総括と、非暴力的手段による対話姿勢の明確化が求められる。
戦闘員らの社会復帰を実現するには、法的地位の明確化に加え、教育・就労・居住など、具体的な措置も必要である。また、地域社会との協働を通じた信頼の構築も、和平プロセスの持続性を左右する重要な要素となるだろう。
【参考】
「トルコ:PKKが停戦を宣言」『中東かわら版』2024年度No.133。
「トルコ:トルコ:PKKのオジャラン指導者が武装解除を促す声明を発表」『中東かわら版』2024年度No.132。
(主任研究員 金子 真夕)
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