中東かわら版

№16 カタル:ガス田拡張計画第1段階でのLNG生産が2026年半ばに開始へ

 2025年5月21日、カタルのカアビー・エネルギー担当国務相(兼カタルエナジー社CEO)は世界ガス会議(WGC)での講演で、「ノースフィールド・ガス田(別名ノースドーム・ガス田)」拡張計画第1段階での液化天然ガス(LNG)生産開始が2026年半ばになると述べた。同田はカタル半島北部ラアス・ラファーンの沖合に位置する世界最大級の沖合ガス田である。

 カタルは2017年に資源温存を目的としたガス田開発の中断措置を12年ぶりに解除し、ガス田拡張計画を打ち出した。第1段階の「ノースフィールド・イースト(NFE)」事業では、年産3200万トンの液化設備が設置されるため、カタルの年間液化能力が現在の7700万トンから1億900万トンに増加する。また、第2段階の「ノースフィールド・サウス(NFS)」事業や、第3段階の「ノースフィールド・ウエスト(NFW)」事業も段階的に実施される予定である。

 

評価 

 カタルはLNG輸出大国であるが、LNG生産量では2019年にオーストラリア、2023年に米国に抜かれるなど、近年国際ガス市場で激しいシェア争いに直面している。2019年に石油輸出国機構(OPEC)を脱退したカタルにとって、天然ガス収入は国家経済を支える重要な財政収入源である。このため、カタルは将来的な天然ガス収入の増大に向け、ガス田拡張計画を進めるとともに、LNG増産分の輸出先と輸送手段となるLNG運搬船の確保にも努めてきた。

 NFE事業でのLNG販路先には、これまでの主要輸出先であるアジア市場(中国や台湾、バングラデシュ)に加え、欧州市場(イタリア、オランダ、ドイツ、フランス)も含まれている。ウクライナ戦争を機にロシア産天然ガスの輸入制限を目指す欧州諸国にLNGを積極的に輸出することで、カタルはガス供給国としての地位向上を試みている。

 この先、カタルのLNG増産がイランの天然ガス産業に与える影響が注視される。カタルのノースフィールド・ガス田とイランのサウスパールス・ガス田は、地下構造が繋がっているため、カタルでのガス田開発がイラン側のガス生産量に影響を与える可能性がある。カタルとイランは境界協定に基づき、境界線両側の一定区間での資源掘削を禁止している。しかし、カタルの急速な資源開発によって圧力差が生じたことで、ガス貯留層がイランからカタル側に徐々に傾いているとの指摘もある。イランにとって、ガス生産量の低下は死活問題(発電用ガス不足など)となり得る。カタルはこれまで米国との基地協定や安全保障協力を活用することで、イランの軍事行動に対してある程度の抑止力を得ているものの、今後は中国など、イランに一定程度の影響力を持つ国々とのガス供給体制を更に構築しておくことが重要である。

 

【参考】

「カタルのLNG増産計画と中東域内情勢の影響」『中東分析レポート』R24-02。※会員限定。

(主任研究員 高橋 雅英)

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