№15 イラン:ハーメネイー最高指導者が対米交渉の成果に疑問
- 2025湾岸・アラビア半島地域イラン
- 公開日:2025/05/21
5月20日、ハーメネイー最高指導者は、故ライーシー前大統領の1周忌の演説で、ライーシー政権でも現在のように米国との間接交渉は行われたが、結果は得られなかったと指摘したうえで、「(今次の交渉でも)結果が得られるとは、我々は思っていない。どうなるかは分からない」と述べた。同師はさらに、米国への「注意・警告」として、「戯言を繰り出すことのないよう努めるべきだ。『我々はイランに、濃縮活動の許可を与えるようなことはしない』などと言っているようだが、大間違いだ。(米国から)あれやこれやの許可を得ようなどと、誰も期待していない」と述べた。
アラーグチー外相も、最高指導者の発言を受け、「我々の観点では、濃縮は交渉可能な事項ではまったくない」とし、米国との交渉によってイランがウラン濃縮活動を停止するようなことはないと改めて強調した。
評価
アラーグチー外相をはじめとするイラン外務省当局は、これまでウラン濃縮活動の停止を求めるウィトコフ中東特使やルビオ米国務長官の発言に対して、交渉でのスタンスと「矛盾」していると批判してきた。例えば5月11日、マスカットでの第4回交渉を直前に控え、アラーグチー外相は米国から矛盾した発言が聞こえてくるとし、そのことが交渉における問題の一つとなっていると述べている。しかし、そうした批判は、米政府の「国内対策」と「交渉での真の要求」との違いを指摘して、交渉の命脈を保つための努力だったとも言える。事実、アラーグチー外相は第4回交渉の終了後、「極めて有益な議論が行われた。双方とも互いの立場に対するより良い理解が得られた」と述べて、交渉が実を結ぶことへの期待を維持した。
しかし、20日のハーメネイー最高指導者の発言は、ウラン濃縮活動の完全停止を求める米国の姿勢を「戯言」と切って捨てるものであり、交渉への期待感をしぼませる結果となった。実際、イランの外国為替市場は最高指導者の発言に反応し、前日(19日)の1ドル約81万8千リヤールが、20日には約84万リヤールへと下落している。
最高指導者の発言の前から、すでに交渉の行方を悲観するような動きが、国会を中心に出ていた。例えば14日、国会は原子力の平和利用の権利が完全に守られ、米国による不当な制裁が解除されるような「公正な」合意以外、イランは認めないとし、2020年12月に可決された「制裁解除に向けた戦略的措置法」が交渉チームにとっての道標だとする声明を採択した。「戦略的措置法」は、濃縮度20%のウランの生産・貯蔵を政府に義務付けるなど、米バイデン政権時代のイランと米国の核交渉の足枷となってきた法律である。
11日の第4回交渉終了後、「我々はこの交渉の継続を決定した」と述べていたアラーグチー外相も、前述のハーメネイー発言を受けて「ここ数日、合理性とは全く相容れないようなスタンスが米国から出ており、そのことが交渉(継続)を困難なものにしている。次回交渉(の日時)をいまだ決めていないのは、そのためである」と述べるなど、核交渉の行方に暗雲が立ち込めている。
(主任研究員 斎藤 正道)
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