№14 GCC:トランプ米大統領のサウジ・カタル・UAE歴訪
2025年5月13~16日、米国のトランプ大統領はサウジアラビア・カタル・UAEを歴訪した。各国訪問の概要は以下の通り。
1.サウジアラビア
- トランプ大統領は現下のサウジの改革を称賛し、これをけん引するサルマーン国王とムハンマド皇太子のリーダーシップを称えた上で、同皇太子を「類例を見ない傑物」と評価。
- サウジ・米国投資フォーラムでサウジから米国への3000億ドル超の投資契約が締結。AIデータセンターへの200億ドル、ガスタービン等のエネルギー機器142億ドル相当の購入、約50億ドル相当のボーイング737-8型機の取引等が含まれる。なおフォーラムにはイーロン・マスク氏の他、IBM、BlackRock、Citigroup、Palantir、NVIDIA等、投資・AI・デジタル分野の大手企業の代表らが列席した。
- トランプ大統領とムハンマド皇太子は、エネルギー・鉱業・国防分野に係る覚書の締結を含む、戦略的経済パートナーシップ合意に署名。米国からサウジへの1420億ドル相当の武器売却が決定された他、サウジ宇宙庁とNASAとの協力につき協議。
- トランプ大統領はイランを、イエメン・イラク・ガザ・シリア・レバノンを不安定化させた元凶と非難し、今後の協議次第でイランに最大限の圧力をかけると警告。
- トランプ大統領は、サウジがロシア・ウクライナ間の和平交渉を仲介していることを称賛。
- トランプ大統領は、サウジとイスラエルとの国交正常化を望んでおり、それは「サウジの望むタイミング」でなされると発言。
- トランプ大統領はムハンマド皇太子、シリアのシャラ暫定大統領との三者会談を経て、一部の対シリア制裁を解除すると発表。
2.カタル
- カタル・米国間で2435億ドル以上の経済取引(米航空機や対ドローン迎撃システムの購入等)の発表。米ホワイトハウスによれば、一連の取引による経済効果は推定1.2兆ドル。
- カタル・米国間で安全保障パートナーシップの強化を目的とした意向表明書(米軍のウダイド空軍基地費用への100億ドルの財政支援を含む380億ドルの防衛投資)の署名。
3.UAE
- UAE・米国間で2000億ドル以上の経済取引(米航空機の購入、米オクラホマ州のアルミニウム製錬所への投資、石油・天然ガス生産の拡大に係る協力等)の発表。
- 今年3月に発表されたUAEの対米国投資公約(10年間で1.4兆ドル)の再確認。
- UAE・米国間の人工知能(AI)協定に基づき、アブダビで5ギガワット(GW)規模のAIデータセンターを建設する協定の署名。
評価
サウジ訪問は、大規模な投資合意に見られるように、サウジから米国への経済支援が注目を浴びた。これに対する米国側の見返りが、幾つかの外交・安全保障に関する譲歩であり、対シリア制裁の解除はその象徴的なものであろう。2000年のクリントン大統領とアサド大統領の会談以来となる米国・シリア首脳会談がリヤドで実現したことで、米国がパワーブローカー、サウジがメディエーターとしての存在感を示した形である。但しイランについては、トランプ大統領からけん制が見られた。これはイスラエル側への配慮だろう。米国が過度にイスラエル側とも、サウジ側とも見られないようにとの、トランプ大統領の思惑が見て取れる。一方でサウジ側としては、イスラエル支持とディール重視というトランプ大統領の中東政策における2つの柱を念頭に置き、より後者の方に同大統領を誘導したい考えだ。
続くトランプ大統領のカタル・UAEへの訪問では、航空やエネルギー、鉱業、先端技術、防衛といった分野で多くの新たな契約が締結された。カタル・米国間ではとりわけ安全保障面での取引が目立ち、カタルが米企業から最新鋭の無人機撃破システム(FS-LIDS)や軍用無人機「MQ-9B」を購入することで、防衛体制の更なる強化や米国との軍事協力の促進を図る姿勢が見られた。
一方、UAE・米国間での取引は、エネルギーと先端技術での結びつきを強めるものとなる。アブダビ国営石油会社(ADNOC)は現在、2027年までに石油生産能力を日量500万バーレルに引き上げるとともに、2028年新設のルワイス液化天然ガス(LNG)施設を通じてガス輸出量を増加させる方針を掲げている。このため、エネルギー生産量の拡大に向けた今般のADNOC・米企業間の協力契約は同目標の実現に寄与するだろう。また、UAEは自国の成長産業と位置付けるAI産業でも米国との関係を重要視している。UAEは米国とAIデータセンター建設で協力することで、米企業NVIDIAから最先端のAIチップを大量調達できる道筋を作ろうとしている。
【参考】
「シリア: アメリカのトランプ大統領が対シリア制裁の解除を表明」『中東かわら版』No.13。
「UAE:米国ルイジアナ州LNG事業への投資」『中東かわら版』No.6。
(研究主幹 高尾 賢一郎)
(主任研究員 高橋 雅英)
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