中東かわら版

№13 シリア: アメリカのトランプ大統領が対シリア制裁の解除を表明

 2025年5月14日、アフマド・シャラ(アブー・ムハンマド・ジャウラーニー)大統領はサウジのリヤードにてアメリカのトランプ大統領、サウジのムハンマド皇太子と面会した。会合には、トルコのエルドアン大統領が電話を通じて参加した。シリアの外務省によると、会談では「対シリア制裁の解除とシリアの復興支援の重要性を確認」、「テロ対策、非国家主体と非シリア武装集団の影響除去でのアメリカとシリアとのパートナーシップの方策」が議題となった。

 アメリカのトランプ大統領は、サウジをはじめとするアラビア半島の産油国からの働きかけを受け、13日に対シリア制裁を解除すると発表していた。今般の会合はこれを受けたもので、シリア国内やアラブ諸国での論調は歓迎一色となった。

評価

 2024年12月に現体制が政権を奪取して以降、アラブ諸国やEU諸国はシリアに対する制裁の緩和・解除に努めてきた。しかし、これらの諸当事者がシリア紛争に際してアメリカが科してきた制裁の対象となることを回避しつつシリアに対する支援や投資を行うことはほぼ不可能な状態となっており、アメリカがシリアへの制裁の解除・緩和を決定したことの効果は大きい。その一方で、トランプ大統領による制裁解除発表はアメリカの財務省や国務省の対シリア制裁を担当者・部局にとっても唐突なものだったようで、行政手続きを含め制裁解除のための具体的な措置をとったり、障害を解消したりする道のりは長い模様だ。しかも、アメリカによる対シリア制裁は、1970年代の「テロ支援国家指定」、「シリア問責・レバノン主権回復法」(2004年)に基づく制裁、シリア紛争に伴う「抗議行動弾圧」や「化学兵器の使用」に関連した制裁、そして2020年に導入された「シーザー法」と呼ばれる包括的な経済封鎖など、長期間に、多岐にわたり科されてきたものである。ここに、アフマド・シャラ大統領を含む現在の暫定政権の要人も対象となっている、ヌスラ戦線(シリアのアル=カーイダ。現在のシャーム解放機構)などのイスラーム過激派に対する国際的な制裁をどのように扱うのかという問題も積み重なる。

 対シリア制裁の解除は、シリア人民の生活水準の回復やシリアの復興のために不可欠なものではあるが、「どの項目を」、「いつ」、「どのように」緩和・解除するかの実務については当面手探りの状態となるとみられる。

(特任研究員 髙岡 豊)

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