№11 イエメン:フーシー派と米国との停戦合意がもたらしうる一層の情勢緊迫化
- 2025イエメン湾岸・アラビア半島地域イスラエル
- 公開日:2025/05/09
2025年5月4日、アンサールッラー(フーシー派)はイスラエルのベン・グリオン国際空港にミサイルを発射し、一部が着弾して6名が負傷した(死者・重傷者は報告されていない)。同派の正規軍と位置づけられる国民救済政府軍は、今後もベン・グリオン空港を攻撃し、イスラエルに包括的な航空封鎖を課すと発表した。報復として翌5~6日、イスラエルは米国とともにフダイダ港とサナア国際空港等に対して、烈度の高い空爆を実施した。なおこれによって同空港は、イスラエル国防軍曰く「完全に使用不可能」となった。
以上を経て6日、オマーンと米国はそれぞれ、オマーンによる調整の下、アンサールッラーと米国が「停戦」に合意したことを発表した。米国が、今年3月以来のアンサールッラー支配地域への空爆をやめることと引き換えに、アンサールッラーが周辺海域へのイスラエル関連船舶への攻撃を停止し、航行の自由を保障するという内容である。これについて、アンサールッラーのマシャート政治局長は、「今の緊張が続けばトランプ大統領の中東訪問(※5月13日以降に予定されている)に影響が及ぶだろうと、間接的に米国側に伝えた」とした上で、アンサールッラーがいかなる犠牲を払ってもガザ支援(※イスラエルへの攻撃)を続ける旨を述べた。
評価
上記発言の通り、アンサールッラーは今般の停戦合意を、自らの警告に米国が屈した結果と示唆した。これによって米国側が発表した、アンサールッラーが米国の攻撃に耐えかねたという説明とは逆のストーリーを内外に向けて発信した。いずれにせよ、合意を調整したオマーン、アンサールッラーの後ろ盾と言われるイラン、またイエメン内戦の介入国であるサウジアラビアは、今般の合意を歓迎した。
ただし本合意はアンサールッラーのイスラエルへの攻撃を制止するものではなく、事実7日、国民救済政府軍はイスラエルのラモン空港(エイラート近郊。ベン・グリオン国際空港に次ぐイスラエルのハブ空港)とテルアビブ周辺にそれぞれドローンを発射した。また同日の声明で、紅海北部の米国空母トルーマンへの弾道ミサイルとドローン発射についても声明が出されるなど、本合意はイスラエル権益と米国権益へのアンサールッラーによる直接攻撃を軒並み制止するものではない。
本合意によって保障されるはずの「航行の自由」は、日本を含む非戦争当事国からすれば、巻き添え被害を避けられる点で歓迎できる。一方、本合意によって「番外戦」が終わり、アンサールッラーの取りうる軍事行動の選択肢が限られることで、イスラエルと米軍への直接攻撃の頻度と烈度が高まる可能性がある。そうなると、報復によるイエメン情勢の一層の緊迫化は避けられないだろう。
(研究主幹 高尾 賢一郎)
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