中東かわら版

№9 ヨルダン:同胞団を非合法化、あらゆる活動を禁止へ

 2025年4月23日、ファラーヤ内相は、法律に基づきヨルダンのムスリム同胞団を即時非合法組織とみなすと発表した。そして、同胞団によるあらゆる活動は禁止され、他の機関と共同で保有しているものも含め、国内で同胞団が使用している事務所や本部はすべて閉鎖されると述べた。さらに同胞団への加入は違法とされ、政治団体、ソーシャルメディア、市民団体を含むあらゆる機関が同胞団とかかわりを持つこと、そのイデオロギーを広めることは禁止されると強調した。

 これを受け、司法警察は同日中に全国でムスリム同胞団が使用していた施設の家宅捜索を始めた。またサイバー犯罪課は同胞団関連のコンテンツの公開や宣伝に対して警告を発し、違反した場合には法的責任が生じる可能性について言及した。

評価 

 今般のファラーヤ内相の発表は、15日に発覚した同胞団関係者の「陰謀」を受けての措置である。ヨルダン総合情報部は、射程3-5kmの短距離ミサイルの製造、爆発物および自動小銃の所持、ドローンの製造計画にかかわったとして16名を逮捕したと発表した。これらは、2021年以来続けられていた監視の結果、明らかになったものである。報道によれば、ミサイル1発はすでに使用の準備が整っていたとされる。同日夜には、同胞団との関係を認める容疑者たちの自白やレバノンで訓練を受けたと供述する映像がメディアで流され、同胞団への非難が高まっていた。実際、21日には下院で同胞団を非難する発言がなされ、閣議ではハッサーン首相が「混乱を広めようとする誤った者たち」を非難していた。

 逮捕発表を受けて、ヨルダンのムスリム同胞団は15日付で声明を出し、メディアで報道されたことは「抵抗運動への支援を動機とした個人的な行為」であり、同胞団は何ら関知も関与もしていないことを声明の中で2度にわたって強調している。同声明の中では「抵抗運動」が何を意味しているのかは明言されていないが、ムスリム同胞団を母体とするイスラーム行動戦線(IAF)が昨年9月に行われた下院選挙でガザ情勢を背景に躍進したことを考えれば、「イスラエルに対する抵抗運動」を意図していると思われる。声明ではまた、パレスチナ人の移住先として「ヨルダンを犠牲にしてパレスチナ問題を解決しようとする危険」について述べられており、同胞団が今般の事案を「個人的行為」かつ「パレスチナ支援」の文脈の中に位置づけ、非難の矛先をかわそうとした意図がうかがえる。

 しかし、短距離ミサイルやドローンといった軍事作戦に応用可能な武器の製造は、国内の治安リスクを一段と高めるものであり、いかなる理由であれ王制側が到底許容できるものではない。ファラーヤ内相も、同胞団を非合法組織と述べた発表の中で「今回明らかになった行為は、いかなる国家も容認できない」と述べており、同胞団に対する政府の厳しい態度を明確に示した。

 現在、IAFは下院における全138議席中31議席を占め、最大野党となっている。IAFの活動及びIAFの下院議員、さらには同胞団に所属している団員たちが今後どのような処遇を受けるかについては、現時点では不透明である。

 アブドッラー2世国王は、戴冠以来、政治や宗教よりも安全保障の観点から同胞団を捉え、政府は同胞団に圧力をかけてきた。逆に言えば、穏健化し法の遵守と国王への忠誠を示す限りにおいては、活動が容認されてきた。実際、2016年に同胞団の事務所が閉鎖され関連放送局が捜査を受けた際には、ヨルダンの当局者が「ムスリム同胞団がヨルダンで活動を行うのであれば、法律を遵守し、脅迫的な言葉遣いを控えるべきだ」とメディアに語っている。

 今般の事案においても、ヨルダンの同胞団は現時点では公式に「テロ組織」として指定されているわけではなく、正式に「テロ組織」と認定され国内活動が厳格に制限されているエジプトや湾岸諸国とは状況が異なっている。現時点でもヨルダンの同胞団にはなお活動を継続する余地が残されており、今後生き残りをかけて、政権に敵対視されないような活動へのシフトを図ることが予測される。同胞団を「テロ組織」に指定せず非合法な形での活動を容認し続ける場合、エジプトや湾岸諸国からの非難を避けるためにも、政府側にとっては同胞団、あるいは同胞団に準ずる団体に対する管理強化が避けがたいものとなるだろう。

 

【参考】

「ヨルダン:下院選挙の実施とハッサーン新内閣の発足」『中東かわら版』2024年度No.80。

「ヨルダン:下院選挙の結果」『中東かわら版』2020年度No.104。

「ヨルダン:国会選挙(18期)」『中東かわら版』2016年度No.91。

(研究員 平 寛多朗)

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