№7 イラン:ハーメネイー最高指導者がイラン・米国交渉に言及
- 2025湾岸・アラビア半島地域イラン
- 公開日:2025/04/17
2025年4月15日、ハーメネイー最高指導者は体制幹部らと面会し、12日にイランと米国の間で行われた「交渉」について初めて言及した。最高指導者は、「我々は、この対話に過度に楽観的になるべきではないし、過度に悲観的になるべきでもない。この最初の数歩では、よい動きがあった。(交渉は)よく実施された」と述べて、交渉を前向きに評価した。
その一方で、最高指導者は「(あなた方は)制裁を無効化する方法を見つけなければならない。やり方はたくさんあり、実際に制裁は無効化することが可能である」としたうえで、「国の抱える諸問題を、この対話に関連付けないよう努めなさい」、「我々は相手側に対して非常に懐疑的である。我々は、相手側を受け入れてはいない」と述べて、従来どおりのスタンスも維持した。
他方、イラン・米国間の初交渉の翌13日から、強硬保守派と目される人物も含めて、多くの国会議員からこの交渉への支持表明が国会公開会議の場で相次いだ。
例えば、ラーフーティー議員は、「最高指導者は交渉に同意したのであり、我々は交渉チームの強化のために努力し、彼らを支援しなければならない」と述べた。
2024年の大統領選で落選した、強硬派の代表的存在のサイード・ジャリーリー氏に近いとされるマフムーディー議員ですら、イランと米国の間接交渉は体制全体のコンセンサスと最高指導者の許可のもとで始められたと指摘したうえで、「今日、厳しい領域に臨んでいるイランの交渉担当者たちや外交機関を支持し、彼らに希望を託す義務が我々全員にある」と述べている。
もちろん、一部強硬派議員からは、交渉に懐疑的な声も聞かれた。JCPOAを強く非難してきたラサーイー議員は、「最高指導者が米国を信用していないこと、大悪魔との交渉は無意味であると考えていることは、周知のとおりだ」と交渉に懐疑的な発言をしている。ただし、このラサーイー議員ですら、「我々は交渉団を支持している」との一言を付け加えるのを忘れてはいない。
また、扇動的な発言で有名なクーチェクザーデ議員は、「親愛なるイラン国民よ、気をつけよ。ここ数日、我々は極めてセンシティブな歴史的瞬間を経験している」としたうえで、「国会は交渉の過程について何も知らされていない」と非難した。
このクーチェクザーデ議員の発言に対し、ガーリーバーフ国会議長は「国会は(交渉の)過程について知らないなどと、国会を代表して話をする資格はない」と反論している。
ファーテミー議員も、SNSへの投稿等で交渉担当者たちを不当に非難している者たちは、国民の間に絶望と分断の種を撒き散らす、妄想に取りつかれた少数派だと糾弾し、急進派を非難している。
評価
イラン・米国交渉とそれを担当する政府への体制内での支持は、交渉前日(11日)のシャムハーニー最高指導者政治顧問の「X」上での発言に現れていた。10日に、対イラン軍事攻撃の脅迫が継続される場合、「IAEA査察官の追放や同機関との協力断絶」や「イラン国内の安全で特定されない場所への濃縮物質の移動」の可能性もあることを指摘して強硬姿勢を見せていたシャムハーニー顧問は、アラーグチー外相が明日「全権をもって」オマーンに行くと述べた上で、「もし米国が誠意と合意への意思をもって(交渉に)臨むのなら、合意への道は開けるだろう」と、一転して交渉に前向きな発言を行ったのである。
前の週にトランプ暗殺を主張する「読者の声」を載せてプレス監視委員会から行政指導を受けた、強硬保守派の代表紙「ケイハーン」のシャリーアトマダーリー発行責任者も、交渉当日の12日付の同紙のコラムに、「オマーンでの間接交渉」は最高指導者の「承認なしにはありえない」としたうえで、イランの「原則的立場から後退するものではない」として、交渉に一定の理解を示していた。
こうしたことから、交渉直前になって、交渉への支持を表明するよう求める大号令が、最高指導部から国会を中心に出た可能性が考えられる。もちろん、米国との「直接交渉」の可能性を否定しつつも、「間接交渉」の可能性は肯定した3月24日のアラーグチー外相の発言の時点で、すでに米国との交渉へのゴーサインがハーメネイー最高指導者から出ていたであろうことは言うまでもない。
米国との交渉に対する否定的発言に終始していたハーメネイー最高指導者が交渉にゴーサインを出した理由としては、軍事行動を脅迫するトランプ米大統領の発言よりも、2月7日のハーメネイー最高指導者の対米国交渉禁止発言以降のイラン通貨リヤールの価値の急激な低下が指摘できるだろう。事実、イラン暦年明け後の3月25日に1ドルは100万リヤールを超え、4月7日には105万リヤールにまでドルが高騰するなど、リヤールの価値低下は底の見えない状況となっていた。ところが、12日にイランとの交渉を開始すると述べたトランプ発言後から、リヤールの価値は持ち直し、交渉直前の4月10日には1ドル約101万リヤール、交渉が行われた4月12日には約96万リヤール、16日には約88万リヤールに回復している。1ドルが90万リヤール台を下回ったのは、2ヵ月ぶりである。交渉発表後のリヤールの価値回復が、交渉支持の大合唱の背景にあるように思われる。
ただし、ハーメネイー最高指導者はこれまでと同様、15日の発言でも対米交渉の成否と国内経済問題の解決とを切り離すよう主張し、反米を国是とするイスラーム共和国体制の維持を目的とする、また自身の(個人的な)対米不信に端を発する国の反米姿勢が経済状況の悪化を招くことへの責任を、自らはなんら負うつもりがないことを表明している。そればかりか、「(あなた方は)制裁を無効化する方法を見つけなければならない」と述べて、経済対策を政府に丸投げして泰然としている。
こうした状況で、ハーメネイー最高指導者が対米交渉を行っている政府の「はしご」を外す可能性は常にあると言えるだろう。
(主任研究員 斎藤 正道)
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