№6 UAE:米国ルイジアナ州LNG事業への投資
- 2025湾岸・アラビア半島地域アラブ首長国連邦
- 公開日:2025/04/16
2025年4月10日、アブダビ首長国の政府系投資会社「ムバーダラ」傘下のムバーダラ・エナジー社は、米国ルイジアナ州でコモンウェルス液化天然ガス(LNG)事業を手掛けるソテックス社の株式24.1%を、投資会社のキンマリッジ社から取得したことを発表した。今回の取引額は、公表されていない。コモンウェルスLNG事業では、年産930万トンの液化設備が設置され、今年中の最終投資決定(FID)を経て、2029年にLNG生産が開始される予定である。
評価
UAE企業が米国LNG産業に進出するのは、ムバーダラ・エナジー社が2社目である。同社に先立ち、アブダビ国営石油会社(ADNOC)が2024年5月、米国テキサス州で建設されるリオグランデLNG事業第1フェーズの株式11.7%を取得した。UAE企業は、米国LNG産業への参入を通じて、生産されたLNGの一部を引き取ることができるため、米国産LNGのトレーディングから得られるガス販売収入を新たな収益源にしようと試みている。
また米国LNG産業への投資は、UAEがトランプ政権との関係を維持する上でも好材料となる。トランプ大統領は石油・天然ガス産業の活性化を目指し、バイデン前政権が推し進めてきた気候変動対策に否定的な立場である。バイデン政権は2024年1月より環境審査の厳格化作業を理由に、米国のFTA非締結国向けのLNG新規輸出認可に係る審査を停止していたが、トランプ政権は発足直後に審査プロセスを再開させ、今年2月にコモンウェルスLNG事業からの新規輸出を承認した。こうした中、UAE企業による今回の投資は、コモンウェルスLNG事業を実現させたいトランプ大統領の意向に沿うものとなり、5月にUAE訪問を予定する同大統領に対し、UAEが対米投資に積極的であるとの姿勢を示すアピール材料となる。
この先も、UAEによる対米投資は拡大していくと予想される。米ホワイトハウスによれば、タフヌーン・ビン・ザーイド国家安全保障顧問は今年3月に訪米してトランプ大統領と会談した際、UAEが今後10年間で米国に1兆4000億ドルを投資すると約束した。投資分野はエネルギーに加え、半導体や人口知能(AI)、製造業も対象となることから、経済多角化を目指すUAEにとって米国産業への投資は、国内産業の育成につながる知見を得られる機会となるだろう。
【参考】
「UAE:米国LNG事業への初参入」『中東かわら版』2024年度No.26。
(主任研究員 高橋 雅英)
◎本「かわら版」の許可なき複製、転送はご遠慮ください。引用の際は出典を明示して下さい。
◎各種情報、お問い合わせは中東調査会 HP をご覧下さい。URL:https://www.meij.or.jp/