中東かわら版

№5 イラン:ペゼシュキヤーン大統領が議会担当副大統領を解任

 2025年4月6日、ペゼシュキヤーン大統領は、ダビーリー議会担当副大統領を解任した。解任理由は、同副大統領が国の直面する経済的難局にもかかわらず、ノウルーズ(イラン正月)期間中に裕福な「南極の旅」に出て、一部から「セレブ批判」が出たため。

 ペゼシュキヤーン大統領は、ダビーリー副大統領に宛てた解任命令のなかで、調査の結果「あなたがノウルーズ期間中に観光で南極旅行を行ったことが判明した」としたうえで、「いまだ国内では国民への経済的圧力が強く、数多くの弱者たちがいる状況において、公的地位にいる責任者が多額の費用のかかる観光旅行を、たとえ自費であったとしても実施することは、(シーア派の初代イマームの)アリーのひそみに倣うことを誇りにしてきた政権にあっては擁護・正当化できず、(政権の)責任者は清貧たれとの基準に合致しない」と断じた。

 これに先立つ3月23日、ダビーリー氏が自身の妻とされる女性とアルゼンチンのブエノスアイレスを旅行し、そこから南極行きの観光船に乗り込もうとする様子を写した写真がインスタグラムの「ストーリー」にアップされ、ネット上に出回って波紋を広げていた。

 例えば、保守派のジャーナリストであるモハンマド・モハージェリー氏は、たとえ自費であったとしても、ダビーリー氏がこのような旅行を行うことは、「ペゼシュキヤーン氏が掲げる『雄弁の道』(※初代イマーム・アリーの説教集)的な方法にそぐわず、政府の好ましからざる構成要素として排除されるべきだ」と述べて、ペゼシュキヤーン大統領にダビーリー氏の解任を求めていた。

評価 

 ダビーリー氏は、ペゼシュキヤーン政権の副大統領に任命される前、同大統領の地元タブリーズ市の市議を務めてきた人物だった。同氏はペゼシュキヤーン大統領と同じく医師で、健康・医薬品分野でビジネスを展開してきた裕福なビジネスマンであるとされる。

 ペゼシュキヤーン大統領が「セレブ然とした生活」を理由に自身の盟友を「切った」のは、セレブへの憎悪を掻き立てることで一部市民にアピールすることをお家芸としてきた強硬保守派による政権批判の機先を制する目的があったものと思われる。

 強硬保守派による「セレブ」批判で記憶に新しいのは、2022年4月に、ガーリーバーフ国会議長の妻と娘及びその夫がトルコに旅行し、そこで大量のベビー用品を買ったことを理由に同議長への攻撃が行われた、いわゆる「シスムニ・ゲート事件」(シスムニはペルシア語でベビー用品のこと)である。この「シスムニ・ゲート事件」を主導したのは、故ライーシー前大統領の娘婿の兄弟であるメイサム・ニーリー氏だったと言われている。彼は、強硬保守派のニュースサイトで、当初アフマディネジャード大統領(当時)への支援を目的に立ち上げられた「ラジャー・ニューズ」の運営者だった人物である。そのアフマディネジャード元大統領は、「エスタブリッシュメント」に対する憎悪の煽動を有力な政治手法として大々的に展開した人物であり、彼は依然として一部の国民の間で支持を受けている。

 ペゼシュキヤーン大統領を支持する一部の国会議員やメディアは、今回の大統領の措置への賛同を表明しているが、果たして経済状況の悪化を背景とした強硬保守派による「憎悪の政治」がイランで再び勢いをもつことを、今回の措置によって防ぐことができるかは不明である。

 なお、ダビーリー氏は解任後、「事前に予定したノウルーズ旅行」を行っただけであり、「いかなる過ち」も犯してはいないとのメッセージを出し、今回の解任への悔しさをにじませている。

(主任研究員 斎藤 正道)

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