中東かわら版

№4 イラク:「トランプ関税」への対応策を決定

 2025年4月4日、イラク政府はアメリカ政府がイラクからの輸入品に対し39%の追加関税の課税を決定したことを受け、閣議を開催した。閣議では貿易省による統計を基に、「アメリカによる関税の引き上げは、イラクがアメリカ製品に課している関税率によって決定されているのではなく、イラクに対するアメリカの貿易赤字額に基づいている」、「アメリカからイラクへの用品の輸入の大半は、アメリカ企業がイラクに対してとっている方針が原因で第三国の市場を経由してなされている」と分析したうえで、スーダーニー首相がイラクの高度な経済的利益を守るための対策として以下の4点を指示した。

 *アメリカの貿易代理店などのための窓口開設、イラクの貿易代理店の活性化、アメリカの諸分野との直接的な通商対応を通じた相互の通商関係の強化。

*両国の銀行・金融部門間の銀行サービスの強化。

*アメリカとの通商関係の基盤発展のため、アメリカとの交渉団の派遣。

*外務、財務、貿易の各省と、その他の担当部署はアメリカの相手方と通商関係強化について対話し、週ごとに首相府に報告すること。

評価

 イラクからアメリカへの輸出品の大半は原油と石油製品で、これらは「トランプ関税」の対象となっていない。イラクからアメリカへの原油の輸出額は年間50億ドル弱であり、イラクにとって中国、インドの2国向けの原油輸出が全体の約7割を占める中、アメリカは主要な輸出先ではない。また、イラクは民生品の9割を輸入に頼っているが、主な輸入元はトルコ、インド、中国、UAE、ヨーロッパ諸国で、アメリカの重要性が高いわけではない。上記の閣議での分析では第三国経由でイラクに輸入されるアメリカ製品があるとされているが、イラクの貿易の全体の中での重要性は高くはなさそうだ。

 イラクにとってより重要なのは、「トランプ関税」に伴う世界経済の成長低下による原油価格の低迷である。イラクの2025年度の予算では、石油収入を1バーレル70ドルと見込んでいるが、現下の原油価格はこの水準に達していない。本稿執筆時点で「トランプ関税」の一部の適用が90日間猶予された模様だが、こうした一時的な措置の繰り返しは問題の根本的解決にはつながらず、混乱を増幅する恐れもある。イラクにとって、石油収入は肥大の一途をたどる公共部門の人件費や社会保障の財源となっている模様で、石油価格の低迷により財政赤字が拡大したり、公共部門の人件費の支給が滞ったりするようであれば、現在の政治体制とその中で有権者への利益誘導を競ってきた諸党派の在り方自体が問われることになるだろう。

(特任研究員 髙岡 豊)

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