中東かわら版

№3 中東:OPECプラスが自主減産を縮小、5月から増産へ

 2025年4月3日、OPEC(石油輸出国機構)加盟国と非加盟国10カ国から成る「OPECプラス」のオンライン会合が開催され、自主減産を行っている8カ国が減産規模を縮小することに合意した。これにより、2025年5月に8カ国合計で41万1000バーレル/日(bpd)の増産が見込まれる。

 OPECプラスの石油減産措置は現在、3つの枠組み(①OPECプラス全加盟国の協調減産200万bpd分、②9カ国の自主減産166万bpd分、③8カ国の自主減産220万bpd分)で実施され、減産量の合計は586万bpdにのぼる。今般、自主減産を縮小する8カ国は、アルジェリア、イラク、オマーン、クウェイト、カザフスタン、サウジアラビア、ロシア、UAEである。8カ国自主減産の縮小開始時期は当初、2024年10月に予定されていたが、石油需要の低下見通しなどを理由に、実施が度々後ろ倒しとなっていた。

 

評価

 OPECプラスは2016年に発足し、OPEC加盟国・非加盟国が協調して石油生産量を調整することで、国際原油価格の推移を管理することを目標としている。OPECプラスの特徴は、それまでOPEC加盟国と石油市場でシェア争いを繰り広げていたロシアが加わった点である。発足以降、OPECのかじ取り役を担うサウジアラビアやUAEは、OPECプラスの減産枠組みを通じてロシアと協力することで、国際石油市場で米国に対抗してきた。

 一方の米国は、トランプ大統領が2025年1月の就任演説で「国家エネルギー非常事態」を宣言し、米国内の石油・天然ガス生産を更に増加させる方針を示した。またOPECに対しても増産による原油価格の引き下げを要請するなど、トランプ大統領には、インフレ対策としてのエネルギー価格の抑制にOPEC側の協力が必要であるとの考えが見られる。ただ、油価の下落は、中東産油国にとって最大の財政収入源である資源収入が大きく減少する要因となる。

 こうした中、OPECプラスの8カ国は自主減産を再延長せずに、段階的な縮小に動き始めた。この背景には、米国の増産方針や中国での燃料需要低迷などを考慮し、OPECプラスが油価の維持よりも、石油市場でのシェア確保を優先し始めたことがあると考えられる。実際、米通信社「ブルームバーグ」によれば、サウジアラビア国営のサウジアラムコ社が5月よりアジア向け原油販売価格を大幅に引き下げるなど、産油国が販路の維持に努めている側面が見られる。

 しかし今般の8カ国自主減産の縮小に、トランプ政権による相互関税の導入による景気後退の懸念も相まって、原油価格が大きく下落している。たとえば、北海ブレント原油価格が4月2日の1バーレル当たり74ドルから、同月6日には63ドルまで落ち込んだ。原油価格の下落はサウジアラビアやUAEにとってトランプ大統領の要望に応えた形になる一方、資源収入の減少に伴う財政赤字を補填するために、これまで蓄積してきた余剰資金を大きく取り崩す必要性が出てくるだろう。

 

【参考】

「第二次トランプ政権発足を受けた中東主要国の対応」『中東分析レポート』R24-08。※会員限定。 

(主任研究員 高橋 雅英)

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