№2 イスラエル:ネタニヤフ首相のハンガリー訪問、「親トランプ」との関係強化
2025年4月3日、ネタニヤフ首相はハンガリーを訪問し、同国のオルバーン首相とブダペストで会談した。この直前、ネタニヤフ首相の逮捕状を請求(2024年11月)している国際刑事裁判所(ICC)からハンガリーが脱退することをオルバーン首相は発表した。これについてネタニヤフ首相は、「大胆かつ信念に基づいた立場」と評価した上で、ハンガリーが「この腐敗と堕落」から撤退した最初の国になると展望した。一方のオルバーン首相は、ICCが「政治化している」と批判し、ネタニヤフ首相の逮捕を不当な措置として拒否した。なお正式な脱退には、今後ハンガリー議会での承認を得る必要がある。
評価
移民問題には厳格に対処すべきと考え、ウクライナ戦争をめぐってウクライナ支持に疑義を呈してロシアへの理解を示し、ガザ危機をめぐってはイスラエルへの非難決議に反対票を投じてきたハンガリー、というより2010年以来の長期オルバーン政権は、近年急速にEU内で孤立を深めていた。そんなオルバーン大統領にとって、自身を「独裁者」と非難したバイデン大統領に代わって、友好的な関係にあるとされるトランプ大統領が米国のトップに返り咲いたことは追い風だ。
イスラエルからすれば、こうした世界の「親トランプ」勢力との間に互恵関係を見出し、関係強化を進めていくことが、ガザ危機以来の国際社会における自身及びイスラエルの孤立を脱却する有効な方法となる。上述の通り、ネタニヤフ首相としてはハンガリーが各国のICC脱退(≒ネタニヤフ首相の逮捕の拒否)の呼び水となり、これを自身の外交の活性化につなげたいところだろう。
とはいえ、この背景として重要なのは、トランプ大統領が現在、ロシアを一方的な敗者としない形でのウクライナ戦争の収束を現実的なオプションと見据えている状況であろう。このことは、「ロシア寄り」と非難されきたオルバーン政権にとっては歓迎すべき状況であり、ネタニヤフ首相にとってもロシアはICC非加盟国であることから、米ロの歩み寄りは都合がよい。同じくICC非加盟国である中国も巻き込めば、米国一国によるものより強いプレッシャーを、「反イスラエル」の立場にある中東諸国に対してかけることが可能となる。以上は、現在のネタニヤフ政権がとりうる非常に限られた外交戦略ではあるが、首尾よく進めば中東地域に対する大きな影響力につながるだろう。
(研究主幹 高尾 賢一郎)
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