№64 パレスチナ:ハマースとPIJが殉教作戦の再開を宣言
2024年8月18日夕刻、イスラエルのテルアビブ市の中心部で爆発事件が発生、1人が死亡、1人が負傷した。当初死者はイスラエル人とされたが、後にヨルダン川西岸地区のナーブルスから来た者で、事件はこの人物が持っていた爆発物によるものであることが判明した。この件について、19日にハマースの軍事部門であるイッズッディーン・カッサーム部隊(カッサーム部隊)が事件をイスラーム聖戦運動(PIJ)の軍事部門であるエルサレム隊の参加を得て実行した殉教作戦であると発表した。カッサーム部隊はこの中で、占領者の内部での殉教作戦は虐殺・民間人の強制移住・暗殺政策が続く限り対決のため復活するだろうと強調した。
評価
パレスチナの抵抗運動諸派による自爆攻撃(殉教作戦)は、2000年代初頭の第二次インティファーダの際にイスラエルの大都市各地でしばしば行われ、民間人も多数死傷した。しかし、イスラエルによる分離壁の建設などの結果、実行要員の潜入や爆発物の運搬が困難になるにつれて自爆攻撃の件数は減少し、今般の事件より前では2016年10月にエルサレム南方で発生した事件についてカッサーム部隊が自派の作戦であると発表したものが最後と思われる。過去15年間ほとんど発生していなかったイスラエルの大都市での自爆攻撃は、イスラエル当局にとっても不意を突かれたものといえる。今般の事件では、実行者と思しき者が8kgもの爆発物をリュックに背負って運搬していた模様であり、実行者・爆発物の潜入経路などの解明がイスラエル側にとっての焦点となろう。
一方、カッサーム部隊とエルサレム隊は、イスラエルによる虐殺・強制移住・暗殺政策が続く限り殉教作戦を再開させると表明しており、今後両派が自爆攻撃をはじめイスラエルの大都市に対する攻撃を図る可能性がある。ただし、両派が殉教作戦再開の前提として挙げたもののうちイスラエルによる暗殺政策は、過去数年に発生したイスラエルとパレスチナとの衝突の発生と停戦の要因となってきたものであり、今般の事件は現在アメリカなどが取り組んでいる停戦・捕虜交換交渉や、今後の「交戦規定」の確立の試みの中でのメッセージ性の高い作戦とも考えられる。今般の事件では、爆発は近隣の教会や商業施設を狙ったものが技術的なミスにより周囲に人が少ない場所で爆発したとも考えられているが、破壊と殺戮の規模よりも作戦のメッセージ性を重視したのならば、爆発による死傷者は少ない方が望ましい場合もありうる。
(協力研究員 髙岡 豊)
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