中東かわら版

№63 イラン:石油増産計画の承認

 2024年8月12日、イラン経済評議会は、イラン国営石油会社(NIOC)が提案した34の油田での石油増産計画を承認した。これにより、石油生産量が25万バーレル/日(bpd)増加する見通しである。石油輸出国機構(OPEC)の月次報告書(※二次情報源)によれば、イランの産油量は今年7月に約327万bpdを記録し、2018年の米国主導の対イラン制裁再開以後、最多となった。

 

評価

 イランは経済制裁を受けながらも、重要な財政収入源である石油・天然ガス収入の拡大を図っている。資源輸出額は、制裁再開後のイラン歴1398年(西暦2019年3月21日~2020年3月20日)の260億ドルから、1401年(2022年3月21日~2023年3月20日)には554億ドルに増加し、翌1402年も最初9カ月で推定423億ドルに達した(出所:イラン中央銀行)。

 増収の要因として、ウクライナ戦争に伴う資源価格の高騰や、石油輸出量の増加が挙げられる。特に原油輸出量は2019~2023年の間、65万bpdから132万bpdに倍増し(出所:OPEC)、2024年に入っても増加傾向にある。現在、イランは経済制裁を理由にOPECプラスによる協調減産の対象外であるため、他産油国が増産を制限している期間を好機と捉え、産油量の拡大を試みていると考えられる。

 注目点は、制裁対象のイランから石油を輸入している国が多数存在していることである。オウジー石油相は今年7月、イランがヨーロッパ諸国を含む17カ国に原油を輸出していると述べた。OPECの統計によれば、中国がイラン産原油の主要購入国であり、2023年にイランが輸出した原油全体の約37%を輸入した。また報道によれば、バングラデシュやオマーン、シリアにも少量のイラン産原油を積んだタンカーが寄港していると見られる。原油の販路が限られる中、イランが資源収入を増加させる上で、中国市場でのシェアを維持、拡大できるかが重要となる。他方、中国の経済停滞や電気自動車の普及に伴う燃料需要の減少と、欧州を締め出されたロシア産原油の中国への流入が、イランの中国向け原油輸出の伸び悩みにつながる可能性がある。

 先行きの見通しは難しいものの、以上の通り、最近のイランの石油輸出は回復傾向にあることから、一概にイランが孤立しているとはいえない状況だ。

(主任研究員 高橋 雅英)

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