中東かわら版

№43 イエメン:フーシー派によるテルアビブへのドローン攻撃

 2024年7月19日早朝、イスラエルのテルアビブ市内の米国大使館分館の近くでドローン一機が建物を攻撃し、付近にいた男性1名が死亡、他10名以上が負傷した。この際、防空警報が鳴らなかったことで、国防軍(IDF)がその原因を究明中と報じられた。

 並行して、イエメンのアンサールッラー(通称フーシー派)のヤフヤー・サリーウ国民救済政府軍報道官が、テルアビブを標的とした軍事作戦を実行したと発表した。各種SNSに見られるアンサールッラー側の説明によれば、今次用いられたドローンはイスラエルの防空レーダーに感知されない「新型」であるとされた。

 

評価

 フーシー派は昨年10月31日以降、イスラエルに対して直接的な軍事攻撃を行ってきた。標的はイスラエル軍関連施設、紅海に面したエイラート、近隣海域のイスラエル船である。2024年に入ると米国・英国連合軍による実効支配地(イエメン北部)への空爆が始まり、フーシー派の対イスラエル軍事作戦は減退傾向を見せ、標的も近隣海域の関連船舶を対象としたものに偏り始めた。

 しかし6月以降は、イラクの親イラン民兵組織連合体「イラクのイスラーム抵抗」との合同作戦として再活性化し、イスラエル本土を標的とした作戦を継続するようになった。標的には、新たにアシュドッドやハイファといった地中海沿海都市が加わった。しかしそれでも、これまでのイスラエル本土のへの攻撃は防空システムによって概ね防がれてきた。

 こうした経緯を踏まえれば、今次攻撃はフーシー派による初のテルアビブ攻撃、及び本土での成功事例として注目に値する。これによって、今までイラクの民兵諸派やヒズブッラーほどの脅威ではなかったフーシー派に対して、イスラエルが従来とは異なる態度をとる可能性もあるだろう。フーシー派の崩壊を望むイエメン南部を拠点とする暫定政権にとってはこの状況で漁夫の利を得たいところであろうし、ガザ戦争以降、フーシー派を自陣の同胞として表立って支持・称賛するようになった「抵抗の枢軸」諸派の動きも活発化する可能性がある。

 なお、今次作戦が「イラクのイスラーム抵抗」との合同作戦かどうかは現時点で不明である。

(研究主幹 高尾 賢一郎)

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