中東かわら版

№142 ヨルダン:カタル産ガスをヨルダン経由でシリアに供給へ

 2025年3月13日、ヨルダンのエネルギー・鉱物資源省とカタル開発基金は、カタル産ガスをヨルダン経由でシリアに供給する贈与契約(Grant Agreement)を締結した。同契約に基づき、ヨルダンはカタル産の液化天然ガス(LNG)をヨルダン南部アカバに位置する浮体式LNG貯蔵・再ガス化設備(FSRU)で受け入れて、再気化した後、アラブ・ガスパイプラインを通じてシリアに供給する計画である。エネルギー・鉱物資源省によれば、シリアに送られるカタル産ガスはダマスカス近郊のダイル・アリー火力発電所に供給され、1日あたり最大400メガワットの発電量の増加が見込まれている。

  

評価 

 アサド政権の崩壊以後、ヨルダンとカタルはシャラ暫定大統領率いる新生シリア政府を一貫して支持してきた。こうした中、両国はシリアでの電力不足問題を解決するため、ヨルダン・シリア間のガスパイプラインを活用して、発電用ガスの供給に動き出した。電力の安定供給は、シリア国民の日々の生活にとって必要不可欠なものであると同時に、経済活動を下支えする重要な社会サービスであることから、シリアへのガス供給に取り組むヨルダンとカタルの試みは評価される。

 一方、紅海情勢の不安定化がカタル・ヨルダン間のLNG輸送ルートに障害になることが懸念される。ガザ戦争下、イエメンのアンサール・アッラー(通称フーシー派)が紅海上で船舶の通航を妨害していることを受け、各国海運会社が船員と船舶の安全を確保するため、紅海を迂回し、アフリカの喜望峰側に航路を相次いで変更した。カタルからヨルダンのアカバにLNGを届けるための最短の航路はアデン湾・紅海ルートであり、喜望峰・地中海・スエズ運河経由の航路は多くの輸送日数を要する。この点を踏まると、フーシー派が紅海上での武装活動を停止しない限り、ヨルダン・カタルがシリアに発電用ガスを安定的かつ適時に供給できない恐れがある。

(主任研究員 高橋 雅英)

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