№141 イラン:米国の対イラン追加制裁、中国精油会社が初の対象に
- 2025湾岸・アラビア半島地域イラン
- 公開日:2025/03/26
2025年3月20日、米財務省外国資産管理室(OFAC)は、対イラン制裁で中国精油会社に対する初の制裁措置を発表した。トランプ政権のイラン石油部門への制裁については、トランプ大統領が2月4日にイランに対する「最大限の圧力」を再開して以来、今回の措置が4回目である(1回目:2月6日、2回目:2月24日、3回目:3月13日)。
今次制裁の対象企業は、山東省に製油所を所有する精油会社「Luqing Petrochemical」である。同社はイラン国防軍需省及びイエメンのフーシー派(アンサールッラー)と関連のある船舶から、イラン産原油を数百万バーレル(約5億ドル相当)購入し、精製したとされる。
また同日、米国務省も広東省恵州市にある石油貯蔵施設の運営会社「Huaying Petrochemical」への制裁を発表した。同社は2025年1月に制裁対象の船舶からイラン産原油100万バーレルを購入し、貯蔵したとされる。
評価
イラン産原油取引に対する米国の制裁はバイデン前政権期、イラン産原油を輸送する船舶や取引の仲介業者を対象としたものであったが、イランはあらゆる手段を用いて中国への販路を確保し、財政収入源である資源収入を維持してきた点から、その効果は限定的であった。これを受け、イランの石油輸出をゼロにすることを目指すトランプ政権は今般、輸入元の中国企業が買い控える状況を作り出すため、中国の精油会社を直接標的とした制裁に踏み切った。また、トランプ大統領がイランに対し、核開発をめぐる交渉に早期に応じるよう呼びかける中、イラン石油部門への制裁を強化することで、イランに圧力をかける狙いもあると言える。
この先、トランプ政権による一連の制裁がイランの石油輸出を制限できるかが注目される。イラン産原油を購入する中国企業は主に、小規模な民間精油会社である。これらの会社は国営精油会社との価格競争で優位に立つために、他国よりも安価なイラン産を優先的に購入している。
こうした中、トランプ政権による一連の対イラン制裁を迂回するための代替輸出ルートの構築が、イラン・中国間の物流コストを上昇させて、イラン産原油が割高となれば、中国企業はイラン以外の国からの調達に動き出すと考えられる。また、トランプ政権が今次制裁に続き、今後も中国企業への制裁対象を広げると予想されるため、イランから中国への原油輸出量が徐々に低下していく可能性がある。
【参考】
「イラン:米国・イラン間の核交渉を巡る動き」『中東かわら版』No.136。
「イラン:米国のトランプ政権によるイラン石油部門への制裁」『中東かわら版』No.124。
「イラン:米国のトランプ大統領が「最大限の圧力」再開を発表」『中東かわら版』No.121。
(主任研究員 高橋 雅英)
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