№138 パレスチナ:イスラエルによるガザ地区攻撃再開
2025年3月17日、イスラエル軍はガザ地区への大規模な空爆を再開した。パレスチナ側の情報によると、攻撃により女性と子供を中心に400人以上が死亡した。また、この攻撃ではハマースとパレスチナ・イスラーム聖戦運動の幹部複数が殺害されており、パレスチナ諸派が今般の攻撃や「停戦」維持の努力に対しどのように反応するのかが焦点となっている。この問題について、2025年3月18日付『シャルク・アウサト』紙(サウジ資本の汎アラブ紙)はハマースの軍事的選択肢について要旨以下の通り報じた。
*ハマースは、停戦合意第一段階が終了した後、幹部・構成員に対し治安・警戒措置をとり、車両や近代的な通信機器を使用しないよう指示していた。一方、イスラエルは当該期間中ガザ地区での諜報活動を強化し、攻撃対象リストを更新していた。
*ハマースは、今般の攻撃に対する軍事的反撃の方法で困難な選択に直面している。ハマース筋は、「ハマースは、ガザ地区の住民を軍事作戦にさらさないための政治過程の追求から、今般の虐殺への反撃で主導権をとるためカッサーム部隊の裁量に任せるまで、すべての選択肢を検討している」と述べた。同筋によると、ハマースは依然としてイスラエル軍に打撃を与える能力を維持している。同筋は、「反撃の方法、時宜はカッサーム部隊の司令部が決定するが、それは戦場の状況、仲介者らが取っている連絡の進展次第だ。現在はラマダーン月であり、断食明けの祝祭を控えている。ハマースの側に、事態を激化させる意向はない」と述べた。
*15カ月間続いたこれまでの戦闘で、ハマースは軍事力、特に長射程のロケット弾の多くを失っており、最近3カ月間のロケット弾発射数は大幅に減少した。カッサーム部隊は能力の回復に努めているが、それによりごく限られた数のロケット弾を製造したようだ。ハマース筋を含む現地の消息筋によると、ハマースは停戦期間中に地下壕や工房に保管していたロケット弾製造設備の一部を回収したが、その中には損傷していないものもあった。カッサーム部隊の司令部は、ロケット弾や爆弾製造のために停戦期間の継続に努めていたが、原材料が不足しているため製造物はごく少数だった。ロケット弾や対戦車弾は、保管されていた場所から回収されており、がれきからこれらを取り出す捜索作業が始まっていた。また、カッサーム部隊は戦闘再開に備えて組織の再建と戦闘員の新規徴募を行っている。
*現地筋は、イスラエル軍が限定的かつ奇襲的な地上作戦を行うこともあると考えており、パレスチナ諸派はこれに備えて停戦期間中に構成員同士の連携と情報交換を活性化させた。双方の境界地点では、パレスチナ側の戦闘員による偵察活動が常に行われている。イスラエル軍が地上作戦を行う場合、それはハマースにとってイスラエルの地上部隊を攻撃する機会となる。しかし、境界地帯は無人地帯と化しており、カッサーム部隊の戦法は境界付近での狙撃、対装甲車弾の発射、直接戦闘くらいしかない。カッサーム部隊のロケット弾発射能力が低下した期間、同部隊はイスラエルの地上部隊への攻撃に集中してイスラエル側に大きな人的被害を与えた。
評価
ガザ地区の「停戦」については、同地区でのイスラエルによる攻撃や援助物資搬入への制限が続き連日死傷者や住民の窮状についての情報が発信され続けていた。そのうえ、イスラエル軍はヨルダン川西岸地区でも軍事作戦を強化し、多数が死傷したり住居を追われたりしていた。したがって、より広域的に見れば「停戦」は地域の緊張緩和や和平に資するものとは言えなかった。その一方で、ここまでの各種報道機関の分析では、ハマースにはイスラエルとの本格的な交戦に耐える能力はないという見方が主流である。
カッサーム部隊の戦力回復の試みは、イスラエル軍の不発弾から取り出した火薬を用いたロケット弾・爆弾の製造程度に限られており、あとは塹壕と小銃程度の戦力しかないと考えられている。こうした戦力では、イスラエル軍にゲリラ戦を挑む場合はともかく、空爆に対抗することはできない。ハマース側の能力という観点からは、イスラエル軍による攻撃再開に伴う今後の展開としては、ガザ地区の住民の生活環境のさらなる悪化と、住民の死傷者の増加よりほかのことを予想するのは困難だ。
(協力研究員 髙岡 豊)
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