№137 イスラエル:アゼルバイジャンとの新たなガス田開発事業
2025年3月17日、イスラエルのエネルギー省はアゼルバイジャン国営石油会社(SOCAR)を中心とする企業連合体と、沖合ガス田の探査権を付与する協定を締結した。今次協定に基づき、SOCARは協力企業2社(英国のBP社及びイスラエルのニューメッド・エナジー社)と、リバイアサン・ガス田の北部に位置する海域(Zone1鉱区)で、今後3年にわたってガス田開発に向けた地質調査を実施する計画である。協定の締結は当初、SOCARが入札を通じて探査権を獲得した2023年10月直後に予定されていたが、ガザ戦争の影響により、大幅に遅れていた。
SOCARはイスラエルで他のガス田事業にも参入しており、2025年1月にイスラエル人実業家が所有するユニオン・エナジー社から、沖合タマル・ガス田の事業株式10%を取得した。
評価
イスラエル沖合のガス田開発については、ガザ戦争の影響を受けながらも、これまで米国・英国企業が主導する形で、ガス生産量が維持され、増産計画も進められてきた。2024年、ガス生産量は過去最高の27BCM(10億立方メートル)を記録し、そのうち13BCMがエジプト及びヨルダンに輸出された(出所:イスラエル・エネルギー省)。輸入国のエジプトやヨルダンにとってイスラエル産ガスの重要性は年々高まっており、電力の安定供給面でイスラエル産ガスの輸入が不可欠となっている。
今般、SOCARがガス田開発の新規事業を手掛けることは、イスラエル・アゼルバイジャン関係の強化に貢献するだろう。まず両国の関係は、イスラエルがアゼルバイジャンに武器を輸出しており、2020年の第二次ナゴルノ・カラバフ紛争の際にもドローン兵器を供与するなど、軍事・安全保障上で緊密である。またエネルギー面では、イスラエルにとってアゼルバイジャンは原油の主要な輸入先である。輸入ルートのBTC石油パイプライン(アゼルバイジャンの首都バクーからジョージアの首都トビリシ経由で、トルコ南東部の港町ジェイハンに通じる)は、イスラエルの原油調達上の生命線であると言える。
アゼルバイジャンはこの先、イスラエルのガス田開発でも重要な役割を担うと予想される。アゼルバイジャンは自国でもガス田開発を行い、開発の技術・知識を長年蓄積してきたため、それらを最大限活用することで、イスラエルのガス田開発でも成功する可能性がある。新規ガス田の開発によりガス生産量が大幅に増加すれば、イスラエルはガス供給国としての地位を更に向上させることが可能となるだろう。
【参考】
「イスラエル:沖合で新たなガス田開発事業の始動」『中東かわら版』No.50。
「イスラエル:地域情勢の変化を受けたヘルツォグ大統領のアゼルバイジャン訪問」『中東かわら版』2023年度No.32。
「イスラエル・エジプト:エジプトへのガス輸出の増加に向け、ガス田の拡張」『中東トピックス』T24-03。※会員限定。
(主任研究員 高橋 雅英)
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