№136 イラン:米国・イラン間の核交渉を巡る動き
- 2025イラン湾岸・アラビア半島地域
- 公開日:2025/03/14
2025年3月7日、米国のトランプ大統領はメディアに対して、イランに核交渉に応じるよう書簡を送ったと発言し、米国・イラン間で核交渉を巡る動きが俄かに活発化した。同大統領は『Fox News』に対し、「私は彼ら(イラン)に、もし軍事的手段を講じなければならないならば非常に良くないことだと言及しつつ、交渉に応じるよう求める書簡を送った」と発言した。
その直後には米国からの書簡を受け取っていないとしていたイランだが、その後の3月12日、アラーグチー外相は、UAEのガルガーシュ大統領顧問からトランプ米大統領の書簡を受け取った旨認めた。書簡の詳細については明らかにされていない。
こうした中、ハーメネイー最高指導者は12日、我々は何年も交渉に応じてきた、しかし同じ人物がテーブルをひっくり返し最終化された合意文書を破り捨てた、相手側が合意を守る意思がないのであれば交渉する意味は何であろうか、今回の交渉への呼びかけは国際世論への欺瞞である、との立場を表明した。
評価
第2次トランプ政権が始動し、対イラン政策がどうなるかが注目される中、今般、トランプ大統領はイランに書簡で対話を呼びかけた。その中身は公表されていないが、同大統領としては軍事・経済的圧力を仄めかすことで、イランを交渉のテーブルに引きずり出し、核兵器保有を断念させたい、つまり同国のウラン濃縮活動を停止させたいものとみられる。この手法は、第1次政権でソレイマーニー革命防衛隊ゴドス部隊司令官殺害(2020年1月)にみられたように、軍事的威圧を織り交ぜながらイランに妥協を迫ったのと比較すると、やや穏健な手法にもみえる。但し、根本的には、イランを跪かせディールを迫る手法という点では大きく変わらないと、先ずいえる。
現在、イランが書簡を受け取ったと公表したことから、ボールはイラン側にある。イランには交渉の要求を受け入れないという選択肢も勿論存在するが、平和を求めていると主張しつつ軟化姿勢を見せる相手から持ち掛けられた交渉を断ったという状況は、敵対するイスラエルの目から見れば、イランは本音のところでは核兵器保有を諦めていない危険な国と映り、核施設が攻撃を受けるリスクを高めることになり、イランにデメリットが大きい。
イランでは最高指導者があらゆる意思決定の頂点に立つと度々評され、実際に同ポストが政治・司法・メディア等に対して絶大な権限を有すことは間違いない。他方、同国の対外政策決定過程には、最高指導者の他にも、国家安全保障最高評議会(SNSC)、大統領、外務省、国会、革命防衛隊等、多くの主体が関わっており、国内の多種多様な意見を汲み取りつつ全体的な方針が決定される傾向がある。注目すべきは、2024年6~7月の選挙で当選したペゼシュキヤーン大統領は改革派の人物であり、選挙戦で争ったジャリーリー候補(元SNSC書記)やガーリーバーフ候補(現国会議長)が対外強硬姿勢を掲げたのに対し、国際協調路線を打ち出したことで有権者の支持を得た点である。同政権下では、かつて核交渉首席交渉官を務めたアラーグチー氏が外相に任命されてもいる。この意味では、今後も様々な主体が時に相反する意見を述べると想像されるが、大統領及び外相がその荒波の中でクッションのような役割を果たしながら調整を図るものと考えられる。最高指導者も、大統領や外務省にそのような役割を期待しながらうまく活用するだろう。
これと並行して、イランはE3(英・仏・独)との対話も続けると考えられる他、核協議に関する中露との対話を続けることで、異なる主体間で均衡を図り、自国の利益を最大化させる道を探る可能性が高い。例えば、イランに対するSWIFTからの遮断に関する経済制裁はEUが課したものであり、交渉すべき相手は米国ではなく欧州ということになる。また、今後のタイムラインを見渡すと、国連安保理決議2231号で規定される、イランに対するスナップバック(国連制裁再発動)条項の期限が失効する2025年10月18日(採択の日から10年目)が一つの分水嶺になり得る。米国は既に核合意から単独離脱していることから、欧州がスナップバックの発動を梃子にして、同期日までにイランに対して妥協するよう圧力をかけることがあり得よう。また、JCPOA締結に当たってはオマーンが仲介役を担ったとされており、米国・イラン間に国交がない中で、今回も第三国による仲介が重要な役割を果たすと考えられる。
【参考】
・「イラン:米国のトランプ大統領が「最大限の圧力」再開を発表」『中東かわら版』No.121、2025年2月5日。
(研究主幹 青木 健太)
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