№134 パレスチナ:臨時アラブ首脳会議がガザ地区管理案を採択
2025年3月4日、カイロにて臨時アラブ首脳会議が開催され、エジプトが提示したガザ地区再建構想などについて協議し、要旨以下の通り声明を発表した。
- パレスチナ人民のすべての権利に応える公正かつ包括的和平の実現という戦略的選択を確認する。国際法・人道的原則と価値を否定し安全と安定を揺るがすことを目的とする暴力・過激主義・テロリズムを常に否定することを確認する。パレスチナ人民の権利とは、自由、二国家解決に基づき祖国に建設される主権を持つ独立国、パレスチナ難民の帰還である。戦略的選択は、2002年のアラブ和平提案に基づくイスラエルを含む地域のすべての国と人民の安全を保障するものだ。
- 地域の包括的かつ公正な和平を実現するため、アメリカを含む国際的・地域的勢力との協力を緊密化する。イスラエルによる占領の終結と二国家解決、国際諸決議に基づきパレスチナ問題の公正かつ包括的解決に至ることを目指す和平交渉再開のため、アメリカや国際社会のパートナーとの(協働に)ただちに加わる用意があることを確認する。
- あらゆる形態のパレスチナ人民の強制移住を断固拒否するというアラブの立場を確認する。
- 最近イスラエル政府が発表したガザ地区への人道支援物資搬入停止決定、救援作業に使用されていた通過地点の閉鎖決定を非難する。これらの措置が、停戦合意と国際法、国際人道法に反するとみなされることを確認する。
- パレスチナ人民の強制移住やパレスチナ被占領地の併合についての悪しき試みに警告する。これらの試みは、地域を諸紛争の新たな段階に突入させるものだ。これについて、強制移住とパレスチナ問題の抹殺の脅威に対抗するヨルダンとエジプトの努力を強調する。
- パレスチナ国家・アラブ諸国との連携により、エジプトが提示したガザ地区再建計画をアラブ全体の計画として採用する。国際社会と地域・国際的金融機関に対し、この計画に必要な支援を迅速に提供するよう促す。この努力は、パレスチナ人民の正当な願望を実現することを目指す恒常的かつ公正な解決のための政治過程と並行して進行する。
- (ガザ地区での)停戦の第二段階と第三段階を完遂することが最重要の優先事項であることを確認する。イスラエルをはじめとする全当事者が約束事項を遵守することの重要性を確認する。
- (ガザ地区の)復興事業を実施するための基金創設が、諸国・諸機関からの拠出約束を受けたことを歓迎する。
- ガザ地区再建のためのアラブの計画を説明する、アラブ・イスラーム合同委員会の枠組み下で世界各国と連絡する。
10.パレスチナ政府の参加でガザ地区行政委員会を編成するというパレスチナの決定を歓迎する。同委員会は、ガザ地区の能力のある住民によって形成され、ガザ地区に愛国的当局が復帰できるようになるまでの移行期間の行政を担当する。パレスチナ警察の訓練のためのヨルダンとエジプトからの提案を評価する。治安の問題はパレスチナ人の責任であり、正当なパレスチナの諸機関が一つの法、唯一の正当な武装の原則に基づいてパレスチナの諸機関だけが国際社会の完全な支援によって治安を運営する。
11.国連安保理に、パレスチナとイスラエルの両人民の安全を達成することに貢献する平和維持部隊の派遣を呼び掛ける。
12.パレスチナ国家による包括的改革の継続努力を歓迎する。
13.入植、人種隔離、家屋の破壊、土地収用、社会資本の破壊、諸都市への軍事侵攻を含むイスラエルによるヨルダン川西岸地区への侵略停止を要求する。
14.ラマダーン入りに際し、パレスチナ被占領地全域での緊張緩和を呼び掛ける。
15.二国家解決を実践するための、サウジが主導する国際同盟の努力を支援する。
16.UNRWAの死活的かつ代替不能な役割を確認する。
17.国連と協力して、イスラエルによる侵略の犠牲者であるガザ地区の孤児養育のための国際基金設置を呼び掛ける。
18.各国に対し、国際司法裁判所の勧告的意見を実践するよう促す。
19.アラブ諸国の法務委員会に、パレスチナ人民の強制移住を集団虐殺犯罪の一環であると認識されるような研究を委託する。
20.レバノンでの停戦合意の全条項が適用されること、安保理決議1701号が順守される必要があることを確認する。
21.シリアに対するイスラエルの攻撃とシリア領への侵攻を非難する。
(以下省略)
なお、アラブの(ガザ地区復興)計画として採択されたエジプトが提案した案は、5年間で総額530億ドルを支出し、緊急援助・復興・長期的な経済開発のための事業を行うものだ。事業は、がれきの除去と20万戸の仮設住宅設置と半壊住居6万件の修理(最初の6カ月に30億ドル)、サービス施設と恒常的な住居の建設、農地の改良(2027年までに200億ドル)、工業地帯、漁港、港湾、空港の建設(2030年までに300億ドル)の三段階からなる。
評価
今般の臨時首脳会議とそれに先立つガザ地区復興のためのエジプトの構想は、アメリカのトランプ大統領が発表したガザ地区の住民の強制移住と同地区をアメリカが「所有」して経済開発することを基幹とする復興構想を受け、ガザ地区住民の強制移住(とエジプト・ヨルダンなどでの彼らの定住)を拒否・回避するためのものだ。そのような意味で、ガザ地区をはじめとするパレスチナとパレスチナ人民の将来についてのアラブ諸国の動きは受動的でアメリカ・イスラエルの後手に回るものともいえる。また、今般の声明で言及されている2002年のアラブ和平提案は、本来イスラエルがすべての占領地を返還することをアラブ諸国とイスラエルとの外交関係正常化の条件とする提案だったが、同提案後にイスラエルと国交を樹立するアラブ諸国が相次いでいる。これは、アラブ諸国の側にシリア領やレバノン領も含むアラブ諸国の被占領地の回復とパレスチナ人民の状況の改善を達成するうえでアメリカ・イスラエルを動かす手段がほとんどないことを意味している。一方、アメリカ、イスラエルはパレスチナの占領地の管理について、ハマースとPAの排除、イスラエルの安全の保障などの要求事項がある一方で、いずれも占領地の管理のため自ら資源を費やす意志が乏しいうえ、両国の側に二国家解決を追求する機運も見られない。このため、アラブ諸国は今次声明で強調した二国家解決へとむけてアメリカ、イスラエルを動かすことができないまま、パレスチナの復興・開発、管理のための負担だけをさせられる展開になることも考えられる。アラブ諸国やパレスチナ人民にとっての事態好転のためには、アメリカとイスラエルを動かすための手段の獲得や、諸当事者間の団結の維持・強化に一層努めなくてはならないだろう。
(協力研究員 髙岡 豊)
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