中東かわら版

№131 UAE:ムハンマド大統領の初のイタリア国賓訪問、400億ドルの投資へ

 2025年2月23~24日、ムハンマド大統領は閣僚や経済界の主要人物とともに、イタリアを初めて国賓訪問した。ムハンマド大統領は滞在中、マッタレッラ大統領やメローニ首相のそれぞれと会談し、UAE・イタリア関係を戦略的パートナーシップに格上げすることを決定したほか、イタリアの主要産業に400億ドルを投資することを約束した。

 両国の共同声明によれば、経済、エネルギー、先端技術、人工知能(AI)、防衛、宇宙、鉱業、文化といった分野での協力やアフリカでの連携に関して、40以上の協定及び覚書が結ばれた。特筆すべき取り決めは、以下の点である。

  • イタリアの支援を受け、EUとの包括的経済連携協定(CEPA)の締結交渉を進めること。
  • 投資会社「MGX」及びAI会社「G42」がイタリア炭化水素公社「エニ」と、AIインフラやデータセンターの拡大で協力すること。
  • エネルギー会社のマスダル及びTAQAがイタリアのエニと、再エネ開発やイタリア・アルバニア間の送電網構築で協力すること。
  • 投資会社「ADQ」がイタリアのエニと、重要鉱物の採掘・加工・供給で連携すること。
  • 防衛会社「EDGE」がイタリア防衛会社「ELT」と、サイバー防衛分野で協力すること。

 

評価

 UAEとイタリアは2014年から続くリビア紛争で異なる勢力を支援するなど、両国関係に利害対立が見られた。だが、2022年9月にメローニ政権が誕生して以降、イタリアが湾岸諸国との関係強化を積極的に図り、UAE側もイタリアとの関係発展に取り組んだ結果、両国間の結びつきが年々強まっている。たとえば、ムハンマド大統領は2023年7月にローマで開かれた非正規移民対策を目的とした「移民と開発国際会議」に出席し、イタリア及び関係国の支援のために1億ドルの拠出を発表した。またUAE・イタリア間の防衛協力も進展し、UAEはEDGE・イタリア造船会社「フィンカンティエリ」の合弁企業に軍艦の改修契約を発注したほか、EDGE傘下の防衛セキュリティ会社がイタリア防衛大手「レオナルド」との提携を結んだ。

 今次声明で注目される点は、UAEがEUとのCEPA締結に向けてイタリアから支援を得ることである。UAEはこれまで自国に陸海空の物流回廊を構築することで、各地域への貿易中継地として役割を担ってきた。こうした国際的な貿易ハブの地位を更に向上させるため、UAEはインドや韓国などとCEPAを結び、今後も日本を含め締結相手国を増やす方針である。このため、米国に次ぐ第2位の経済規模であるEUとの貿易交渉の妥結は、UAEにとって重要な意味がある。UAEは、長年関係を構築してきたフランスに加え、イタリアからも全面的な後押しを受けるため、今後もイタリアへの投資拡大やイタリア製武器の大量購入に動くと考えられる。

 

【参考】

「UAE:ムハンマド大統領のフランス訪問、フランスAI産業への大規模投資」『中東かわら版』No.123。

(主任研究員 高橋 雅英)

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