№129 エジプト:キプロス産ガスを輸入し、欧州にLNG輸出へ
2025年2月17日、エジプトとキプロスは、キプロス南西沖にあるクロノス・ガス田(ブロック6鉱区)の開発に係る政府間合意(HGA)を、ガス権益を保有するイタリアのエニ社及びフランスのトタルエナジーズ社と結んだ。同合意に基づき、クロノス・ガス田で生産された天然ガスを、隣接するエジプトのゾフル・ガス田の輸送インフラを利用して、エジプトのLNG(液化天然ガス)生産施設に送り、エジプト産LNGとして欧州に輸出する計画である。クロノス・ガス田は2022年に発見され、埋蔵量は3兆立方フィート以上と推定される。
評価
エジプトでは、2023年にガスの国内生産量が減少し始めたことで、ガス不足が深刻化し、欧州向けのLNG輸出も停滞した。パイプライン経由でイスラエル産ガスを輸入しているものの、不足分を補えず、2024年夏にLNG輸入量の拡大に踏み切った。エジプトがLNG輸出を再開できないため、イタリアやフランスなどの輸入国は代替調達先の確保を余儀なくされた。この点から、イタリアとフランスは既存のガス輸出施設を最大限活用することで、エジプトによるLNG輸出の早期再開に向けて動いていると考えられる。
東地中海でのガス開発動向では、イスラエルがエジプト向けガス供給量を増加できるかも注目される。2024年6月、米国のシェブロン社はイスラエルのニューメッド・エナジー社及びレシオ・エナジーズ社と、イスラエル沖合のリバイアサン・ガス田の輸出能力を拡大させる計画を承認した。また翌7月、英国拠点のエナージアン社も沖合のカトラン・ガス田開発プロジェクトへの最終投資決定(FID)を行い、新規ガス田の開発に乗り出した。この先、イスラエルがエジプトへのガス輸出量を増やし、エジプトも電源多角化政策を通じて発電用ガス消費を抑制することができれば、エジプトは東地中海で天然ガスの一大供給ハブ国になれるだろう。
【参考】
「イスラエル:地域情勢の悪化を受け、沖合ガス田の拡張事業が中断」『中東かわら版』No.79。
「イスラエル:沖合で新たなガス田開発事業の始動」『中東かわら版』No.50。
「エジプト:ガス不足の深刻化を受け、LNG輸入の拡大へ」『中東かわら版』No.17。
(主任研究員 高橋 雅英)
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