№128 レバノン:イスラエル軍の占領は継続
2024年11月27日の停戦合意に基づくイスラエル軍の撤退期限が満了した。本来、撤退期限は2025年1月26日に満了すべきものだったが、2月18日まで延長されていた。この18日の期限についても再度延長される可能性が取りざたされていたが、イスラエル軍は撤退対象地域のうち5カ所(ルブーナ丘陵、バラート山、ジャッル・ダイル、バート山、ダワーウィール)に拠点を設置し、レバノン領から撤退しなかった。これらの5カ所は、イスラエル・レバノン間の境界のイスラエル側にある入植地と対面する高地にあり、イスラエル軍による拠点の構築はアメリカとの連携の下でのこととされている。なお、イスラエル軍は上記の5カ所を除く地域からは、諸村落・集落を破壊しつくしたうえで撤退し、その後一部地域にレバノン軍が展開した。
レバノン政府は、イスラエル軍の拠点が領内に残存している問題を国連安保理を通じて解消する方針を表明した。また、ヒズブッラーはレバノン国家に被占領地を解放する責任があると表明し、現時点で軍事行動を起こしていない。
評価
レバノン政府、ヒズブッラーともにイスラエルの南レバノン占領が続くことに軍事的な抵抗をする方針ではない模様だ。特に、現在ベイルート国際空港とイランとの間の航空便の発着が停止しており、シリアでの政権崩壊により陸路での補給路が絶たれたことに加え、空路での補給路も絶たれた状態のヒズブッラーが、軍事的な作戦行動を起こすことは極めて難しい。同党としては、南レバノンの住民を動員した抗議行動などの非武装の手段に訴えることになろうが、その過程でイスラエル軍が抗議行動を攻撃して民間人が死傷することになっても、現下のレバノン内外の政治情勢に鑑みるとイスラエルに対する非難や圧力が高まることは予想し難い。一方、レバノン政府・軍はイスラエルに対する抑止力を全く持っていない。そうした状況でアメリカが半ば公認してイスラエルによるレバノン領占領が継続することで、今後レバノン政府がヒズブッラーの影響力の低減、同党の武装解除などアメリカ・イスラエルに親和的な政策をとる誘因は低下するといえる。今後焦点となるのはヒズブッラーのリタニ川以北への退去とイスラエル軍のレバノンからの撤退などを求める安保理決議1701号の履行だが、ヒズブッラーが「イスラエルによる占領継続」を強調することにより履行が困難になるだろう。
(協力研究員 髙岡 豊)
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