中東かわら版

№125 レバノン:サラーム内閣の組閣が完了

 2025年2月8日、大統領府はナッワーフ・サラームを首班とする閣僚24人からなる内閣を組閣したと発表した。これにより、1月にレバノン軍のジョゼフ・アウン司令官が大統領に選出された件に続いて大統領、内閣が空席や暫定状態となっていた憲政上の空白が終息することとなった。

役職

氏名

特記事項

首相

ナッワーフ・サラーム

 

副首相

ターリク・ミトリー

無所属

財務相

ヤーシーン・カーミル・ジャービル

アマル枠

文化相

ガッサーン・サラーマ

無所属

国防相

ミシェル・ミンサー

無所属

エネルギー・水資源相

ジョゼフ・サッディー

レバノン軍団

観光相

ローラー・ハージン (ローラー・ラフード)

無所属、女性

社会問題相

ハニーン・サイード

無所属、女性

外相

ユースフ・ラッジー

無所属

経済・貿易相

アーミル・バサート

無所属

避難民担当相兼情報技術・AI担当相

カマール・シハーダ

レバノン軍団

内相

アフマド・ハッジャール

無所属

司法相

アーディル・ナッサール

カターイブ党

通信相

シャルル・ハーッジ

カターイブ党

青年・スポーツ相

ヌーラー・バーイラークダーリヤーン

ターシュナーク党、女性

教育・高等教育相

リーマー・カラーミー

サラーム首相枠、女性

工業相

ジョー・イーサー・フーリー

レバノン軍団

行政改革相

ファーディー・マッキー

無所属

労働相

ムハンマド・ハイダル

ヒズブッラー枠

公共事業・運輸相

ファーイズ・ラサームニー

進歩民主党

農業相

ニザール・ハーニー

進歩社会党

情報相

フール・マルカス

無所属

環境相

タマーラー・ザイン

アマル枠、女性

保健相

ラカーン・ナーシルッディーン

ヒズブッラー枠

 

評価

 新内閣の当面の課題は、2019年秋に顕在化した経済危機や、2024年秋のイスラエルによる攻撃による被害からの経済的復旧・復興、国連安保理決議1701の履行などの外交・安全保障上の課題への取り組みである。大統領の選出と組閣に際し、イスラエルとの戦闘と隣国シリアでのアサド政権崩壊などにより政治的・軍事的に大打撃を受けたとみられるヒズブッラーの影響力の低下や、アメリカをはじめとする諸外国による新内閣からの同党の排除要求も相まって、内閣での決定事項を阻止できる(閣僚数の)3分の1を確保する党派がない組閣となった。諸党派の連合により重要な決定事項を阻止可能な状態となるように役職が配分される状態は、諸党派間の対立が先鋭化した2005年以降半ば慣習化していたところ、政治的決定や人事などの決定事項が円滑に進むことが期待される。

 その一方で、今般憲政上の空白状態が一応解消したことが、宗教・宗派集団を政治的権益の単位として固定化して役職を配分する宗派体制に起因するレバノンの根本的な問題の解消の端緒となる見込みは低そうだ。各宗教・宗派集団には、それを主導する有力者たちが諸政党を指導し、権益配分の窓口となることによって有権者を従属させてきた。諸党派の指導者たちには、資源を配分する以上の機能を果たすほど中央政府、軍・治安機関を強化する動機はほとんどない。また、宗教・宗派集団内での指導的立場をめぐる有力者間の競合は、宗教・宗派集団を超えた諸党派の合従連衡を引き起こすため、何らかの政治問題をめぐって再び重要な決定事項を阻止するために(内閣や国会で)3分の1を確保する連合が形成されることもありうる。

 この観点からは、2005年以来キリスト教マロン派内で優勢を保ってきた自由国民潮流が政治的に孤立し、今般の組閣でも閣僚を指名できなかったことが注目点となる。レバノンを取り巻く国際関係や安全保障環境の変化が、国内の諸党派の消長につながることは、ヒズブッラーだけの問題ではない点に留意すべきだ。

(協力研究員 髙岡 豊)

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