№124 イラン:米国のトランプ政権によるイラン石油部門への制裁
- 2025湾岸・アラビア半島地域イラン
- 公開日:2025/02/12
2025年2月6日、米財務省外国資産管理室(OFAC)は、数百万バーレルのイラン産原油を中国に輸送した複数の企業に対する制裁を発表した。今回の対イラン制裁は、トランプ大統領がイランに対する「最大限の圧力」を再開したことに基づき、発動された初の措置である。その目的は、イランの軍事費や、イランが中東全域で「抵抗の枢軸」勢力に資金提供するための財源となる、イランのエネルギー収入を制限することである。
主な対象企業は、イラン軍参謀本部に資金を提供しているとされるセペヘル・エナジー社である。同社は、インドやセーシェル、香港拠点の企業が所有する石油タンカーを利用し、中国への原油輸出を行ってきた。
評価
イラン産原油の取引に対する米国の制裁は、バイデン前政権期に幾度となく発動してきたものの、イランはあらゆる手段を用いて中国に輸出し、財政収入源である資源収入を維持してきた。今次制裁の効果も限定的になる可能性があるため、イラン・中国間の原油取引に関与する諸外国の企業を制裁対象とするだけでなく、輸入元の中国企業が買い控えるような、強力な制裁が必要となる。一方、実際にイランの石油収入が大幅に減少した場合、イランは外貨準備の不足により、インフレ率の上昇や通貨の下落、開発プロジェクトの停止といった経済課題に直面するだろう。
イラン産原油の輸出減少は、イラン以外の中東産油国には経済的メリットになると考えられる。現在、イランは制裁を理由にOPECプラスの協調減産措置の免除国であるため、他産油国と足並みを揃えずに、自国の方針で産油量を増加させることが可能である。イランに加え、米国も増産方針を示しているため、今後の国際石油価格は下落していく見通しである。それに対し、他の中東産油国はOPECプラスの減産枠組みを活用して、油価の維持を目指している。こうした中、この先イランの原油輸出に支障が生じれば、イラン以外の中東産油国は油価上昇が資源収入の増加につながることを期待できる。さらに、中国がイラン産原油の代替調達先に動くことで、中国原油市場でのシェアを拡大できると考えられる。
【参考】
「イラン:米国のトランプ大統領が「最大限の圧力」再開を発表」『中東かわら版』No.121。
「イラン:米国によるイラン石油部門への追加制裁」『中東かわら版』No.85。
「イラン:石油増産計画の承認」『中東かわら版』No.63。
(主任研究員 高橋 雅英)
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