№121 イラン:米国のトランプ大統領が「最大限の圧力」再開を発表
- 2025イラン湾岸・アラビア半島地域
- 公開日:2025/02/05
2025年2月4日、米国のトランプ大統領は、イランに対する「最大限の圧力」を再開すると発表した。同日、トランプ大統領は、国家安全保障大統領覚書(National Security Presidential Memorandum)に署名し、イランが核保有する道を断つこと、及び、イランの海外での影響拡大に対抗する姿勢を明確にした。同大統領は記者らに対し、「とても単純である、イランは核兵器を持つことはできない」と発言した。また、同日同大統領と会談したイスラエルのネタニヤフ首相は、トランプ大統領の決断を歓迎しつつ、「我々(注:米国とイスラエル)は、目配せしながらイランを監視する。イランはトランプ大統領を殺そうとしたし、代理勢力を使って私を殺そうとした」と述べた。
同覚書の要旨は、以下の通りである(下線は筆者による)。
●本覚書をもって、イランに対する「最大限の圧力」(Maximum Pressure)を再開する。イランの核兵器及び大陸間弾道ミサイル保有を拒絶する。
●イランのテロリスト・ネットワークを無効化し、同国のミサイル、及び、その他の非対称的且つ古典的な兵器能力に対抗する。
●財務長官に対し、イランへの経済制裁や制裁違反への強制執行を含めた、最大限の経済圧力(maximum economic pressure)を課すよう指示する。財務長官は、海運、保険、港湾を含め、全ての関係分野に対して米国の制裁への違反を取り締まるよう指導する。
●国務長官は、既存の制裁免除規定を改定するとともに、財務長官とともにイランの石油輸出をゼロにするキャンペーンを履行する。
●米国国連常駐代表部は、イランに対するスナップバック(注:国連制裁再発動)を完了するよう同盟国と調整する。
●前政権(注:バイデン政権を指す)による、米国民・企業に対するイランの脅威の許容は今日で終わりである。検事総長は、イランあるいはその代理勢力に支えられる米国内の財務・兵站ネットワーク、活動家、フロント組織に対し、捜査、破壊、訴追等、利用可能なあらゆる法的措置を講じる。
●2020年、トランプ大統領は「米国大統領である限り、イランは核兵器を持つことが許されることは絶対にない」と宣言した。
●本覚書は、大統領の2020年の公約を改めて確認するものである。
・「余りにも長い間-正確には、1979年にまで遡るが-、諸外国はイランの中東と周辺地域での、破壊的、且つ、不安定化させる試みを許容してきた。そうした日々は終わりである。イランはテロリズムの主要支援国であり、彼らの核保有追求は文明化された世界を脅かす。我々はそうした事態を絶対に起こさせない。」(注:右は本覚書発表文の結語)
評価
第一次トランプ政権は2018年5月に核合意から単独離脱し、イランに対する「最大限の圧力」キャンペーンを課した。こうした過去の経緯から、第二次トランプ政権においても対イラン強硬政策が講じられる可能性が高いと考えられていた。今次の大統領覚書署名は、トランプ政権がイランに対して厳しい立場を取る姿勢を明確に表明したものであることから、米国のイラン政策の方向性は事前の予測通り強硬なものとなりそうだと、先ずいえる。
他方、トランプ大統領は2025年1月に就任して以降、平和を求める、イランとの戦争は望まない、といった立場も見せている。実際、1月23日、同大統領は記者らからイラン核施設に対するイスラエルの攻撃を支持するかと問われたのに対し、「その方向(軍事的衝突)に向かうことなく解決すれば望ましい」「上手くいけばイランはディールを結ぶだろう、でなければそれも構わない」と発言した。こうした発言からは、同大統領が経済的威圧を加えることでイランから譲歩を引き出し、何らかのディールを結びたいとの意向を有している様子がうかがえる。この点、第一次政権時にポンペオ国務長官、ボルトン国家安全保障担当大統領補佐官ら、イラン強硬派の側近の意見を聞き入れていた時と比べ、第二次政権の姿勢は若干異なっている。
但し、バイデン前政権も核合意への「条件付き復帰」の立場を示していたものの、革命防衛隊の外国テロ組織指定からの解除、並びに、バイデン政権の任期満了後も米国側が合意から離脱しない確固たる保証の必要性等を巡って、イラン・米国間の対立が続き、協議が頓挫した経緯がある。このため、トランプ大統領が今のところ様子見の姿勢だからといって、今後の趨勢を楽観視することはできず、先ずは協議が緒に就くかを見極める必要がある。また、現在、イラン産原油の多くは中国が購入している状況であるため、もし米国が中国企業・個人への経済制裁を強化すれば米中間の関係悪化も危惧される。
最も懸念されるのは、イスラエルからの攻撃等によって、現在、イランの防空システムが脆弱な状態になっている他、革命防衛隊が育成してきた抵抗戦線が著しく弱体化している点である。イスラエル・米国によるイランへの圧力が経済面に留まらず、軍事面にも拡大するか否かが大きな注目点である。
【参考】
・「イラン・アメリカ:ポンペオ米国務長官が12項目の要求リストを発表」『中東かわら版』2018年度No.21、2018年5月22日。
(研究主幹 青木 健太)
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