№120 中東:トランプ大統領によるパレスチナ人移住計画案に対する拒否
2025年2月1日、カイロで開かれたアラブ諸国閣僚会合にエジプト、カタル、サウジアラビア、ヨルダン、UAEの各国外相、並びにPLOのフサイン・シャイフ執行評議会事務局長、アラブ連盟のアブルゲイト事務局長が参加し、以下概要の諸点で合意した。
●ガザ地区での停戦及び人質交換を歓迎する。今後、二国家解決案に沿った上で、トランプ米政権と共に中東での公正かつ包括的な和平の実現に向け協力する。
●ガザ地区全域での人道支援、復興支援に取り組む。同時にガザ地区からのイスラエル軍の完全撤退を求める。国際社会は、パレスチナ自治政府(PA)がパレスチナの一部としてガザ地区の統治を再開できるよう後押しする。
●UNRWAの活動を制限、阻止する事態を拒否する。
●パレスチナ人が現在の土地に残ることができるよう、ガザ地区の包括的な復興プロセスを早急に策定する。
●国際法に基づいてパレスチナ人の正当な権利が確保されることを支持する。彼らを今の土地から移住させる、また移住を奨励するいかなる提案も拒否する。
●エジプトによる、国連と協力してのガザ地区復興のための国際会議の開催を歓迎する。
●世界及び地域の主要国、また国連安保理に対して、二国家解決案の実行を要求する。この一環で、2025年6月に予定されているサウジアラビアとフランスが主導する国際会議を支持する。
以上の通り、参加各国は、今後のガザ地区の復興や恒久的な停戦に向けた取り組みにおける米国の貢献に対する期待を述べつつ、トランプ米大統領が先立って提案した、パレスチナ人の周辺国への移住計画を明確に拒否し、さらには二国家解決案という従来の姿勢を表明した。
評価
第二次トランプ政権は、発足前から示唆されていた第一次政権の中東政策の路線継続、すなわち徹底したイスラエル支持を打ち出している。一方、現時点の各種提案には、バイデン前政権時代の政策を失政とあげつらう意図が見られる。つまり、トランプ大統領による各種提案が必ずしも実際に最優先して強行されるとは限らない。
それでも、イスラエルが米国に請い求め、これを米国が中東諸国に強要して物事が運ぶという、イスラエルの中東における一強時代の形成を、アラブ諸国としては牽制したいところだろう。トランプ大統領のパレスチナ人移住計画に対しては、移住先候補とされたエジプトとヨルダン、また当事者であるPAをはじめ、周辺諸国からすでに明確な拒否が示されてきた。今次会議は、これを総意として表明すること以上の意味はないとしても、アラブ諸国の中でも米国に近しい国々が集まったことから(イランやトルコといった米国批判を展開する国々は参加していない)、米国に対する拒否よりも要請と位置づけられるものだろう。米国が仲介に加わったガザ地区での停戦合意に対する評価や、地域の安定化に向けたトランプ政権との協業に触れている点からもこのことがうかがえる。
だからといって、近い将来にパレスチナ人の周辺国への移住がなされる可能性はゼロではない。トランプ大統領が自身の提案に執着すれば、相応のバーター材料をエジプトやヨルダンなどに提示するはずである。しかしこれとて、パレスチナ人追放の先陣を切ったとの汚名を被るリスクを考えれば、アラブ諸国として容易に受け入れられるものではない。
(研究主幹 高尾 賢一郎)
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