№115 イスラエル:停戦合意を受けた宗教右派勢力の政府離脱
2025年1月18日、政府はハマースとの停戦合意を賛成24票、反対8票で承認した。反対8票の内訳は、ネタニヤフ首相率いるリクードの議員2名、宗教右派政党・ユダヤの力の3閣僚、同じく宗教的シオニズムの3閣僚である。
承認を受けて、ベン・グヴィル国家安全保障相は自身が率いるユダヤの力が政府を離脱すると発表した。同党は計6議席、ベン・グヴィル党首の他、閣僚2名(エリヤフ・エルサレム事案・遺跡担当相、・バッセルラウフ辺境・ネゲブ・ガリラヤ開発相)を輩出していた。あわせて、非閣僚の同党議員3名の辞任が伝えられた。
一方、同じく離脱を匂わせていた宗教的シオニズム(計7議席、閣僚3名)は、党首のスモトリッチ財務相はじめ、全て留任する模様である。
評価
全120議席の内、連立政権が有するのは68議席である。つまり、ユダヤの力の議員がすべて離脱してもマイナス6であるため、必要な定数(過半数)を割る事態にはならない。言い換えれば、宗教的シオニズムの政府残留が連立政権維持にとっての命綱になっている。当然ながら、ネタニヤフ首相と完全に袂を分かつより、段階的にプレッシャーをかけていくための、2つの宗教右派政党の代表間による事前の取り決めがあったはずだ。
今後、ネタニヤフ首相は空席となる閣僚ポストに新たな人物を任命しなければならない。連立政権が維持できるとはいえ、議席のマイナスは補いたいところであるため、自身のリクードからの任命になる可能性が高い。この場合、ベン・グヴィル氏が復帰を望めば交代させることも可能だろう。
いずれにせよ、ネタニヤフ首相はハマースとの停戦を維持・進展させるかと並行して、政府内の人事異動の調整に取り組む必要がある。ガザ・レバノン・シリアでの軍事展開を後押ししてきたのが宗教右派政党であり、その宗教右派政党により連立政権が成り立ってきたことから、停戦と人事はきわめて密接につながった事案といえる。
(研究主幹 高尾 賢一郎)
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