中東かわら版

№114 カタル:ガザ情勢巡り面目躍如をアピールも不透明な行き先

 2025年1月15日にカタル・エジプト・米国が発表したガザ停戦合意を受けて、タミーム首長はこれがガザ地区及びパレスチナ被占領地における暴力が終息に向かうための新しいステップになることへの期待を表明した。

 一方で、国営放送アルジャジーラは合意発表後もイスラエルがガザ地区への攻撃を継続していることを報じており、合意発表から17日までにガザで21人の子供と25人の女性を含む87人のパレスチナ人がイスラエルの攻撃で死亡したと伝えた。

 

評価

 今次の停戦合意は、もとより極めて不透明なものである。これまでイスラエル・ハマース間で合意を見なかった諸点(ハマースが要求するイスラエル軍のガザ地区からの撤退及びガザ地区封鎖の解除、イスラエルが要求するハマースの解体及び戦後統治におけるハマースの完全排除、並びに遺体含む人質の全員解放等)がカバーされているかどうかに触れておらず、また昨年末以来、ネタニヤフ政権を支える宗教右派の閣僚(スモトリッチ財相とベン・グヴィル国家安全保障相)が、「ハマースと停戦合意するなら自党は連立政権を抜ける」とネタニヤフ首相に圧力をかけていた問題(※)も未解決のままで発表された、完全な見切り発車である。

 この点、今次合意には退任するバイデン米大統領へのはなむけ、及び就任するトランプ新大統領へのご祝儀以上の意味はあまりないと言える。カタルとしては、仲介外交の実績とハマースとのチャンネルを期待されて停戦交渉に関わってきた立場から、今次合意への大きな期待を上述の通り述べるが、あらゆる決定権がイスラエル側にある状況は変わっていない。

 

※スモトリッチ財相とベン・グヴィル国家安全保障相が党首を務める宗教的シオニズムとユダヤの力はそれぞれ7議席、6議席を保有しており、これらが連立政権から抜ければ連立政権は議会で過半数を維持できなくなる。

(研究主幹 高尾 賢一郎)

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