№113 イスラエル・パレスチナ:イスラエル・ハマース間で停戦合意
2025年1月15日、カタルのムハンマド・ビン・アブドゥルラフマーン首相兼外相は、イスラエルとハマースが一時的な停戦に合意したと発表した。この停戦期間は42日間(6週間)で、1月19日より発効する。報道によれば、この合意は3段階で構成されている。
第1段階では、42日間の停戦を実施する。停戦の開始から16日目までに、恒久的な停戦やイスラエル軍の完全撤退を含む次の段階に向けた協議を開始し、協議中は停戦が延長される見込みである。第2段階では、恒久的な停戦に関する交渉を行い、第3段階では、ガザにおける大規模な復興計画が始動する予定である。
今次停戦の具体的な内容は以下の通りである。
・イスラエル軍はガザの人口密集地から段階的に撤退する。
・ハマースは拘束中の人質約100人のうち、女性、子ども、高齢者など33人を解放する。
・イスラエルはパレスチナ人囚人、数百人を釈放する。
・人道支援物資として、戦争前を上回る1日600台のトラックがガザに搬入され、北部地域への住民の帰還が認められる。
この発表を受けて、イスラエルは1月16日に閣議で停戦合意を承認する予定としている。米国のバイデン大統領は、停戦成立発表後、大統領として最後の国民向け演説を行った。ネタニヤフ首相はバイデン大統領およびトランプ次期大統領に電話をし、停戦成立に向けた尽力への謝意を表明した。ただし、イスラエル首相府は、交渉の詳細が未確定であるとして公式発表を控えている。
2023年10月に勃発したガザ戦争では、今回が2回目の停戦および人質解放・囚人交換である。しかし、ハマースは「停戦なくして人質の状況確認はできない」と主張しており、残る約100人の人質の安否についても現時点で不明である。
評価
一時停戦の合意が成立したが、その内容は極めて曖昧である。現在も詳細を詰めるための交渉が継続中であり、今後の政治的、外交的、軍事的展開には紆余曲折が予想される。イスラエル閣議での合意承認においても議論が紛糾する可能性がある。特筆すべきは、今回の停戦合意がバイデン大統領の任期終了直前、トランプ次期大統領の就任直前というタイミングで成立している点である。このことから、イスラエルとハマース双方に対米配慮があった可能性が考えられる。
今回の合意は、2023年秋に実施された単純な合意(一時停戦と人質解放、パレスチナ囚人の交換釈放)とは異なり、イスラエル軍のガザからの完全撤退や恒久的停戦、さらにはガザ戦争の終結および戦後復興までを含む広範な枠組みを対象としている。そのため、交渉が難航し、停戦が崩壊するリスクは依然として高い。しかし、こうした包括的な合意枠組みにより、ガザ戦争の政治的解決へ向けた進展が期待される。
戦争の長期化とガザ住民の悲惨な生活状況に、住民が心底うんざりしているのは明らかである。また、イスラエル国民も戦争の経済的・社会的負担を重荷に感じていることは間違いない。こうした双方の疲弊が、今回の合意を通じて状況改善の契機となる可能性を秘めている。
イスラエル・ハマース間の衝突は、過去にも繰り返されてきたが、今回の戦争では部外者が直接介入した点がこれまでとは異なる。レバノンのヒズブッラー、イラン、イラクの親イラン系民兵、イエメンのフーシー派などがハマースを支援する名目で戦争に参加したことで、ガザ戦争は過去の紛争の地理的枠を超え、中東全域を巻き込む広域的な軍事衝突に拡大した。これにより、数千キロメートルに及ぶ地域間での戦闘が発生し、パレスチナ問題が域内の緊張をも引き起こしている。
こうした状況下で行われた今般の停戦合意は、これまでの紛争構造に変化をもたらす可能性を示しており、停戦の行方次第では、長期的な地域安定化の基盤が築かれるかもしれない。
(協力研究員 中島 勇)
◎本「かわら版」の許可なき複製、転送はご遠慮ください。引用の際は出典を明示して下さい。
◎各種情報、お問い合わせは中東調査会 HP をご覧下さい。URL:https://www.meij.or.jp/