中東かわら版

№104 レバノン:停戦発効後もイスラエルによる攻撃が続く

 2024年11月27日、イスラエルとレバノンとの間にアメリカなどが仲介した停戦合意が発効し、イスラエルによる攻撃は小康状態となった。また、ヒズブッラーによるイスラエルへのロケット弾・ミサイル・無人機攻撃も停止した。停戦の発効を受け、イスラエルによって破壊されていたレバノンとシリアとの間の国境通過地点の一部も再開した。

 しかし、レバノン軍の発表によると12月3日までにイスラエルによる停戦違反は80件に達している。2日と3日には、イスラエルによるレバノンへの爆撃により各々9人、1人が殺害された。また、イスラエル軍は南レバノンの62集落の避難民に対し、帰還を禁止すると発表している。一方、ヒズブッラーはイスラエルによる停戦違反の常態化に対する「防衛と警告」として、2日にレバノン南東部のカファルシューバーにイスラエル軍が設置した拠点をミサイル攻撃した。

 イスラエルによる攻撃は、ガザ地区やシリアに対してもレバノンでの停戦発効とは無関係に継続している。3日には、ダマスカス市とダマスカス国際空港を結ぶ道路でイスラエル軍が車両を爆撃した模様だが、レバノン治安筋によるとこの爆撃でヒズブッラーの幹部が殺害された。

評価

 今般レバノンで発効した停戦合意により、戦闘は一応小康状態となり避難民の帰還が一部で進んでいる。一方、アメリカやイスラエルの解釈、あるいはこの両者が報道機関などに発信する停戦合意の条項では、自衛権に基づくイスラエルの行動の自由は保障されている。このため、イスラエルの脅威認識やヒズブッラーの解体という政治・軍事目標に基づき、イスラエル軍はレバノンに対し時と場と程度を問わず攻撃することが可能である。また、停戦合意に含まれる南レバノンへのレバノン軍の展開については、レバノン軍自体が2019年以来の経済危機により人員への給与支払いすら外国からの援助に依存する状態に陥っている上、レバノン軍自身が合意を受けた展開強化のために志願兵が必要であると表明するなど、停戦合意の諸当事者が求める期間内に必要な量・質で部隊を展開することができるのか楽観はできない。

 以上のように、停戦合意が発効したとはいえイスラエルにレバノン内外への軍事攻撃が止む条件は整っていないため、「停戦は維持されているのに攻撃が続く」という奇妙な状態が現出している。ヒズブッラーをはじめとするレバノン側の諸当事者の反応、シリア、パレスチナを含む地域情勢、アメリカなどの諸当事者の国際関係などに応じ、大規模な対レバノン攻撃や交戦が再発する可能性は常にあるということだろう。

(協力研究員 髙岡 豊)

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