№101 イスラエル:ヒズブッラーとの停戦案を閣議で承認
2024年11月26日、イスラエル首相府は、米国・フランスの仲介による、ヒズブッラーとの60日間の停戦案が閣議で承認されたと発表した。承認は賛成10、反対1で決定され、唯一の反対票はベン・グヴィル国家安全保障相が投じた。現地時間27日午前4時から停戦合意が発効される運びである。
今後60日間で、イスラエルはレバノン南部から軍を撤退させ、一方のレバノンはレバノン南部のヒズブッラーが展開していた地域を掌握し、これによって両国国境一帯の安定化が図られる。ネタニヤフ首相は停戦合意が維持できるかはレバノン南部の状況、すなわちヒズブッラーの行動次第であり、同派が合意を履行しなければイスラエルも応戦する旨を述べた。
なお同合意は、あくまでもイスラエル・ヒズブッラー間の、レバノンにおける戦闘停止である。すなわち、ヒズブッラーを利するシリアでの兵站をイスラエルが攻撃することや、ガザでの軍事展開等を妨げるものではない。
評価
10月以降、イスラエルはレバノン南部への本格的な侵攻を続け、並行してガザ地区での人質奪還作戦、イラン・ヒズブッラーをつなぐ回廊であるシリアへの攻撃を行ってきた。今回の停戦合意は、この三方の内、一方に対するリソースをひとまず制限するものである。言い換えれば、残り二方(ガザ・シリア)への攻撃は継続、むしろ激化する可能性がある。
ここ数日の「駆け込み」にも映るレバノン都市部への激しい攻撃は、イスラエルがヒズブッラーとの停戦合意をある程度見据えていたためであろう。ネタニヤフ首相としては、停戦合意の間に避難中の北部国境地域住民を同地に戻す手筈を整え、国内での支持につなげたい考えだろう。
一方、今回の停戦合意の承認によって、ネタニヤフ首相は任期が残り約2カ月となったバイデン大統領が功績を残すことに協力したと評価できる。そう考えれば、おそらくネタニヤフ首相とバイデン大統領との連携はレバノンという、三方の内の一方に限られ、残り二方、とりわけガザ地区での停戦実現という功績は、トランプ新大統領への「就任祝い」として取り置かれる可能性がある。
いずれにせよ、レバノンでの停戦合意は、同国の現状を考えれば重要な一歩と言えるが、これによってガザ地区での停戦やシリアへの攻撃停止が先延ばしになったとの見方も可能であろう。
(研究主幹 高尾 賢一郎)
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