中東かわら版

№99 イラン:国際原子力機関(IAEA)がイラン非難決議を採択

 2024年11月21日、国際原子力機関(IAEA)理事会は、イランを非難する決議を採択した。賛成19票、棄権12票、反対3票(ロシア、中国、ブルキナファソ)だった。同決議は、英・仏・独3カ国(E3)によって提起されたもので、イランがIAEAの査察に充分な協力をしていないことを非難した他、未申告2拠点で見つかった人為的なウラン粒子に関して説明するよう求めた。E3は同日付共同声明で、イランは今や核合意で規定された濃縮ウランの貯蔵量の32倍を蓄積しており核兵器製造の可能性を拭えないとの立場を示した上で、イランが核合意規定に従いウラン濃縮を抑制すること、2023年3月にイラン・IAEA間で結ばれた合意事項を遵守すること、IAEAによる監視機材設置を認めること等を要求した。

評価

 過去にも、IAEAはイランに対して査察受け入れを含む監視活動に完全に協力するよう要請する決議を採択してきた。その点においては、今次のイラン非難決議は、従来から存在するイラン・IAEA間の溝を確認するものといえるが、採択がなされたタイミングが注目される。本年11月5日の米国大統領選挙でトランプ氏が当選したことで、次期米政権人事がイランに対して非常に強硬な布陣となると予想されている。イラン・米国対立の激化が危惧される中、欧州が提案したIAEA非難決議が採択されたことは、イランの対立軸が米から米欧に拡大されたと言える状況を生み出している。19日付『ロイター通信』は、先般のグロッシIAEA事務局長のイラン訪問中、もしIAEAが非難決議採択を見送ればイランはウラン濃縮を抑制すると提案したと報じていた。この意味で、イランの視点からすれば、IAEAはイランの要望を反故にしたばかりでなく、E3ひいては米国と結託してイランを窮地に追いやろうとしていると映るだろう。

 イランが対抗措置を講じる可能性があり緊張の緩和が求められるが、今回の状況が生じる根本的な背景には、経済制裁を解除する代わりにイランの核開発を抑え込む核合意が、完全に形骸化してしまっている点がある。したがって、地域の緊張を低減するためには核合意の再建、もしくはそれに代わる枠組が必要不可欠である。しかし、現下の中東情勢に鑑みれば、米国が、イランの要求事項である革命防衛隊の外国テロ組織指定及び経済制裁の解除を認めるとは考えづらい。どちらかが歩み寄らなければ膠着状態は変わらないことから、米欧が対話に舵を切らない限り、最近のロシアとの接近に鑑みても、イランが更に核開発を推し進めるといった悲観的な方向性を排除できない。

 

【参考】

「イラン:EU・英国がイラン国営海運会社IRISL等に制裁を発動」『中東かわら版』No.97。

「イラン:グロッシIAEA事務局長がテヘラン訪問、査察強化で合意」『中東かわら版』No.154。

(研究主幹 青木 健太)

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