中東かわら版

№97 イラン:EU・英国がイラン国営海運会社IRISL等に制裁を発動

 2024年11月18日、EUはイラン国営海運会社のIRISL(Islamic Republic of Iran Shipping Lines)を制裁対象に指定した。声明によれば、今次決定は、イランによるロシアへの軍事支援、特に弾道ミサイル・ドローンの移転を問題視してなされたもので、兵器輸出のための船舶・港湾の使用が制限されることとなる。EUは、IRISLを含む4法人・1個人を制裁対象に指定することで、イラン革命防衛隊海軍によるアミーラーバード港とアンザリー港(ともにカスピ海沿岸部)を通じたロシアへの兵器供与を制限したいとの立場を示している。

 また、英国も同日、イランによるロシアへの弾道ミサイル供与への対抗措置として、イラン航空とIRISLに制裁を課したと発表した。英国は声明で、ウクライナ人民に破壊をもたらしているロシアによる非合法の戦争に対して、イランは支援を止めるべきだと主張した。

 これら措置に対し、イランのアラーグチー外相は18日、航行の自由は海洋における基本原則であり、EUによる措置には何の法的、合理的、道徳的理由もないと強く非難した。また、同外相は20日にもXを更新し、英国は国際人道法への甚大な違反を犯すイスラエルに対して兵器を供与し続けていると述べ、これらの矛盾する対応は英国の二重基準を示していると批判した。また、イラン外務省は19日には、駐イラン英国臨時代理大使、及び、駐イラン・ハンガリー大使(注:現在、EU議長国を務める)を呼び出し抗議した。

評価

 米国が2018年5月に核合意から単独離脱して以降、イランの金融・原油・産業等のあらゆる分野に対する制裁が再強化されていた。このため、今次の制裁措置も、欧米諸国がイランのロシア支援への抗議を示すためのものといえなくもない。とはいえ、物量の点からいえば、航空貨物よりも格段に多い海上貨物の輸送に対する制限は、イラン人民の生活に大きな影響を与え得る。また、次期米政権が反イランの強硬的立場を取るのではとの見方が強まるタイミングで、欧州も同様の姿勢を鮮明にした点は看過できない。欧米としては、ロシアの侵攻に対抗する意味でも、イスラエル支持の観点からも、イランを徹底的に追い込みたいものと考えられる。

 そうした状況において、イランはロシアへの弾道ミサイルの供与を否定しながら、EUと英国がパレスチナ・ガザ地区とレバノンにおいて国際人道法違反を犯すイスラエルに支援を続けていることを厳しく批判している。イラン側の受け止めは、根拠のない疑惑をもとに制裁を課された、とのものだと推測される。したがって、今後、イラン側が何らかの対抗措置を講じる可能性は充分ある。イランによる対抗措置が、欧米の経済に実質的な打撃を与えるとは考えづらいが、今後、イランと欧米との間の対立が益々深まることが懸念される。実際、イランは、イスラエルによるイラン攻撃(10月26日)に対して「誠実な約束3」作戦を実行する立場を崩していない他、近く国際原子力機関がイラン非難決議の採択をする可能性もある。

(研究主幹 青木 健太)

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