№92 イラン:米大統領選挙結果を受けた反応
- 2024イラン湾岸・アラビア半島地域
- 公開日:2024/11/07
2024年11月6日、米国大統領選挙でトランプ氏が当選確実となったことを受けて、イラン国内では取り敢えずの反応がみられた。同日、ファーテメ・モハージェラーニー政府報道官は記者らに対して、「米国大統領選挙はイランとは関係がない。イランの政策は総体的なものであり、個人によって左右されるものではない。人民の生活にも何らの影響を与えないだろう」と発言した。また、11月6日付『ケイハーン』紙(保守強硬系)は、「米国は大悪魔である。誰が大統領になろうとも変化はない」との見出しを一面に掲げ、民主党のバイデン政権下でもイランに対する強硬政策は変化せず、またイスラエルに対する支援は継続されたとして、米国での政権交代はイランに影響を及ぼさないだろうと伝えた。
評価
現時点までに示されるイラン側の立場表明からは、イランとしては米政権交代の影響を過大評価しない姿勢がみえる。トランプ政権下(2017~2021年)、米国は2018年5月に核合意から単独離脱し、その後「最大限の圧力」キャンペーンを行い、イラン財政を疲弊させた。しかし、イランはライーシー政権(2021~2024年)下で外交の多角化を図り、「東方重視」政策を標榜しながら中国やロシアとの関係を深めた。これによって、現在、イランにとって貴重な外貨収入源である原油の多くを中国が輸入するなど、外貨収入が回復傾向にある。同時に、イランは、上海協力機構(SCO)への正式加盟(2023年7月)、ユーラシア経済連合との自由貿易協定締結(同年12月)、BRICSへの正式加盟(2024年1月)等、多国間枠組との連携強化も進めてきた。これらを通じた外交パートナーの増加と抵抗経済の確立により、イランは強気の姿勢を保てるのだと考えられる。
他方、トランプ氏は第1期政権期に非常に厳しい対イラン政策を講じた経緯があることから、本音のところでは、イラン体制指導部が警戒を高めている可能性は排除されない。トランプ氏は、第1期政権時代にソレイマーニー革命防衛隊司令官の殺害(2020年1月)を断行した他、選挙キャンペーン中に「イスラエルはイランの核施設に報復攻撃をすべきだ」と発言(2024年10月5日付『Fox News』)するなど、イランの核開発を妨害する意図をみせた。もっとも、同発言は選挙キャンペーン期間中になされたものであり、同氏の就任後にその通りの対イラン政策が施行されるとは限らない。しかし、同氏の対イラン政策が、以前と同様、軍事・経済的威圧を織り交ぜた強硬なものになる可能性はある。これに対し、イラン国内で抑止力強化を含む対策を講じるべきとの声が上がることは避けがたく、将来的にイランの更なる核開発の進展、及び、ロシア・中国・北朝鮮との多層的な関係強化といった事態が想定される。トランプ氏がどのような人事を打ち出すかも注目点である。
(研究主幹 青木 健太)
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