中東かわら版

№91 イラク:マフムード・マシュハダーニー新国会議長を選出

 2024年10月31日、国会(定数329)はマフムード・マシュハダーニー議員を議長に選出した。議長選出の選挙は、マシュハダーニー新議長182票、サーリム・イーサーウィー議員43票、アーミル・アブドゥルジャッバール議員8票、白票39票との結果だった。今般の国会議長選出は、ムハンマド・ハルブーシー前議長が国会議員の汚職についての裁判で議長解任判決を受けた後に1年近くにわたり空席となっていた議長を選出したもの。

 マシュハダーニー議長は、1948年5月生まれで出身地はバグダード。軍医としてイラク軍に勤務したほか、フセイン政権に対する反体制運動に参加した。現在の政治体制が導入された初期の2006年~2009年に国会議長を務めた。

評価

 現在のイラクの政治体制では、大統領をクルド人、首相をシーア派のアラブ、国会議長をスンナ派のアラブから選出することが、各民族・宗派集団の既得権益として確立している。今般議長の選出に長期間を要したことは、このようにして民族・宗派集団を人口比に応じて政治的権益を比例配分するための単位とする政治体制の運営の困難さを象徴している。

 国会議長の選出のためには、スンナ派のアラブの諸党派間の合意や競合だけが必要なわけではない。民族・宗派集団に政治的権益を比例配分する体制下では、人口比が低い集団が著しい不利益を被らないために、重要決定にあたっては全会一致か議会や閣議での絶対的多数の支持獲得が追求される。イラクでは、組閣や重要人事での絶対的多数は3分の2を目安としている。このため、議長の座を獲得しようとする個人や党派には、スンナ派のアラブの諸党派間での競合に勝ち抜いたり合意を形成したりする努力とともに、他の民族・宗派集団の諸党派からも支持や同意を獲得するための働きかけが不可欠となる。つまり、この場合はスンナ派のアラブ内部の政治的な権益争いと、シーア派のアラブ、クルド人などほかの有力な民族・宗派集団の諸党派を対象とする多数派工作が同時進行するということだ。政治的権益配分の単位としての民族・宗派集団を横断して多数の支持を獲得する人物を選出するには長い時間と多くの手間がかかるし、支持を獲得できる人物を挙げることすら困難ともいえる。マシュハダーニー議長の選出は、そうしたやり取りの中での諸党派の合意や妥協の産物といえるだろう。

 また、同議長は選出の際に獲得した賛成票が定数の3分の2(およそ220)に達しておらず、議長選出の際の本会議に60近い議員が出席していない。この点にも、今後のイラクの議会や国政の運営の難しさが表れているように思われる。

(協力研究員 髙岡 豊)

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