中東かわら版

№88 中東:カザンで開催されたBRICSサミットへの参加

 2024年10月22~24日、ロシア(タタールスタン)のカザンで開催されたBRICSサミット(プラス会合)に、中東諸国から以下のメンバーが参加した。

ステータス

国名

主な参加者

主張・要求等の要点

メンバー国

イラン

ペゼシュキヤーン大統領、アラーグチー外相

●米国の単独覇権主義と経済制裁、イスラエルのガザ・レバノン攻撃を批判

●BRICS内の経済・貿易協力強化、脱ドル推進

エジプト

シーシー大統領、アブドゥルアーティー外相

●金融分野の協力体制構築、加盟国間での共同経済プロジェクトの設立

UAE

ムハンマド大統領、アブドッラー・ビン・ザーイド外相

●経済分野に限らないBRICS内の協力関係構築

招待国

サウジアラビア

ファイサル・ビン・ファルハーン外相

●多国間協力におけるサウジの貢献

●BRICS諸国との個々の経済関係

●世界的な課題に対応できるより強固な国際機関の必要性

●イスラエルのガザ・レバノン攻撃を批判

その他

トルコ

エルドアン大統領

●BRICS加盟への期待

バハレーン

ザイヤーニー外相

●中東情勢の緊張緩和に向けたBRICSによる対話を通じた貢献

パレスチナ自治政府

アッバース大統領

●BRICS加盟への期待

(出所)各国の報道を元に作成。

 

評価

 2024年1月に加盟国を5から9に拡大して以降、初となるBRICSサミットは、Swiftに代わる金融枠組の構築にかかわる具体的な発表があるかとも期待されたが、共同宣言の採択はなされたものの、加盟国の拡大も含め、特に具体的な決定は公表されないまま閉幕した。

 参加した中東諸国の思惑は様々である。イランは従来通り、BRICSの存在意義を反欧米ブロックとして強調した。エジプトは金融枠組の構築の議論継続の必要性を主張するが、この真意は脱ドル支配というより自国の経済活性化だろう。UAEは新しい分野での協力関係を志向し、サウジ・バハレーンは現下のガザ・レバノン情勢に関与できるあり方をBRICSに求めた。トルコ・パレスチナ自治政府は、BRICSへの加盟希望を改めて訴えた。

 このように、各国の思惑が代表者の演説から見て取れたが、いずれの主張にも、BRICSが今以上の影響力を行使できる国際的な枠組みになることを望んでいる点が共通する。ガザ・レバノン情勢に対して実効的なアクションを起こせていない、国連に対するメッセージでもあるだろう。この点、今次のBRICSサミットは、例年以上に「反欧米」の性格が色濃く出された会合となったとも評価できる。

 この点を踏まえ、興味深い存在はトルコである。上表の通り、今次サミットでトルコのBRICS加盟に向けた具体的な進展はなかったようだが、もしこれが実現すれば、唯一のNATO加盟国にしてBRICS加盟国が誕生する。トルコとしては、こうした異色の存在となることを自国のNATO内、BRICS内、ひいては国際社会全体におけるプレゼンス向上の一助にできるとの思惑があると考えられる。

(中東調査会)

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