中東かわら版

№86 イスラエル:ハマースのシンワール政治局長の殺害を発表

 2024年10月17日、イスラエルはハマースのヤフヤー・シンワール政治局長の殺害を発表した。16日に国防軍(IDF)がガザ地区南部ラファフの建物でハマース戦闘員の掃討作戦を実施し、この際殺害した中に同局長がいたことを、IDFと公安庁(ISA)がDNA検査を経て確認した。これを受けてネタニヤフ首相は、「ハマースの悪の枢軸の崩壊における一つの重要な節目」として戦果をアピールしつつ、ガザでの戦争はハマースの降伏と全人質の奪還まで終わらないと警告した。

 

評価

 イスラエルにとって、「10.7」の首謀者と位置づけるシンワール政治局長を殺害したことは大きな戦果と言える。他方、IDFは既に主戦場をガザからレバノンに移し、ハマースの指揮系統も概ね破壊したと自負している。人質奪還は至上命題としても、「10.7」首謀者の殺害という過去の清算は必ずしも優先事項ではなかっただろう。このことは、同局長が決して特定された上で狙い撃ちされたわけではなかった様子からもうかがえる。

 むしろ今のイスラエルにとってガザ戦争を継続する意義は、レバノンでの戦争とのバランスをとることにあると考えられる。ヒズブッラーは13日にイスラエル北部の軍施設をドローンで攻撃し、IDF兵士4人を殺害、60人以上を負傷させた。17日には55人のIDF兵士を新たに殺害したとの情報も流れている(イスラエル側は人数を公表していない)。ガザに比して、レバノンでは今後より早いペースでIDF側の犠牲者が増える可能性が高い。この点、既に大勢が決したガザ戦争を継続することで、イスラエルは戦果公表の舞台を維持できる。ハマースが弱体化しながらも消滅・降伏しない状況を、イスラエルは効果的に活用していると言えるだろう。

 

【参考】

「パレスチナ:ハマースがヤフヤー・シンワールを政治局長に選出」『中東かわら版』No.61。

(研究主幹 高尾 賢一郎)

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