中東かわら版

№85 イラン:米国によるイラン石油部門への追加制裁

 2024年10月11日、米財務省外国資産管理室(OFAC)は、イランによるイスラエル攻撃(10月1日)の報復措置として、イランの石油部門に対する新たな制裁を発表した。今次制裁は、2018年8月にトランプ前政権が発表した大統領令13846や、今年4月に緊急追加歳出法の一部として制定されたイラン石油密輸防止措置(SHIP法)に基づくものである。

 今次制裁の目的は、イランの軍事費や、イランが中東全域で「抵抗の枢軸」勢力に資金提供するための財源となる、イランのエネルギー収入を制限することである。制裁の対象は、イラン国営石油会社(NIOC)や香港拠点の衆祥石化(Triliance Petrochemical)によるイラン産原油の輸出に関係する、10企業と17隻の船舶である。これらの企業はUAEや中国、マレーシア、マーシャル諸島などに拠点を置き、主にイラン産原油を中国の製油所に輸送している。

評価

 米国は2018年にイラン核合意を離脱して以降、対イラン制裁を迂回してイラン産原油や石油製品の密輸に関与する企業を「特別指定国民(SDN)」に指定し、制裁を科してきた。一方、イランは制裁を受けながらも、重要な財政収入源である石油・天然ガス収入を拡大させてきた。こうした中、米国は10月のイランによるイスラエル攻撃が4月よりも規模が大きかった点を深刻に捉え、イランのエネルギー収入を断つために新たな制裁に踏み切ったと考えられる。

 イランのエネルギー動向に関し注目されるのは、イスラエルによる報復の有無である。仮にイスラエルがイランの石油生産施設や石油輸出港を標的とすれば、国際原油価格が高騰し、米国のみならず、同盟国の欧州や日本の経済にも悪影響が生じる恐れがある。11月に大統領選挙を控える米国において、燃料価格上昇に伴う急激なインフレは、バイデン大統領の後任となるハリス民主党候補の選挙運動にとって不利な状況になりかねない。このため今般、米国がイランの石油部門に追加制裁を発動することで、イスラエルに対し、イランのエネルギー施設への攻撃を控えるよう求めている可能性も排除されない。

 米国がイラン包囲網を強める中、イランがエネルギー収入を維持できるかが注目される。中国がイラン産原油の主要購入国であり、2023年にイランが輸出した原油全体の約37%を輸入した(出所:OPEC)。中国は米国主導の対イラン制裁に同調しておらず、マレーシアなどを経由してイラン産原油を巧妙に輸入し続けている。この点を踏まえると、米国がこれまで幾度となく発動してきた対イラン制裁の効果は限定的であるため、中国が買い控えない限り、イランの石油輸出は2018年の制裁発動前の水準に回復していくと考えられる。

 

【参考】

「イラン:石油増産計画の承認」『中東かわら版』No.63。

(主任研究員 高橋 雅英)

◎本「かわら版」の許可なき複製、転送はご遠慮ください。引用の際は出典を明示して下さい。
◎各種情報、お問い合わせは中東調査会 HP をご覧下さい。URL:https://www.meij.or.jp/

| |


PAGE
TOP