中東かわら版

№84 レバノン:イスラエルによるUNIFILへの侵害行為が相次ぐ

 イスラエルによるレバノン攻撃が続き、南レバノンでのイスラエルの地上部隊の活動も活発化する中、イスラエルの軍・要人による国連レバノン暫定軍(UNFIL)への脅迫と物理的な侵害行為が相次ぐようになった。レバノンとイスラエルとの境界沿いの地域には、1978年以来UNIFILが展開しているが、2006年のイスラエルによるレバノン攻撃後に採択された安保理決議1701号により、UNIFILは任務と体制を再編し現在は50カ国が参加し約1万500人で平和維持活動にあたっている。

 2023年10月7日の「アクサーの大洪水」をうけ、翌8日から南レバノンでもイスラエルとヒズブッラーが交戦するようになったが、それ以降UNIFILの人員や施設が攻撃される事件が発生するようになった。2024年10月10日には、イスラエル軍のUNIFILの拠点への攻撃でUNIFIL要員2名が負傷し、13日にはイスラエル軍の戦車がUNIFILの拠点に侵入した。また、イスラエルのネタニヤフ首相はUNIFILに対して拠点から退去するよう要求しているが、これに先立ち、レバノンとイスラエルとの境界から5km以上北方に退去せよとのイスラエルの要求を、UNIFILが拒否している。

 14日付『シャルク・アウサト』(サウジ資本の汎アラブ紙)によると、イスラエル軍は南レバノンの山や丘で双方の動きを把握できる要地に設置されているUNIFILの施設を占拠し、自軍の拠点として利用しようとしている。この報道によると、アメリカもUNIFILの施設を利用したいというイスラエルの要求を支持しているが、施設を実力行使で奪取することについて留保している。

評価

 レバノンとイスラエルとの紛争で、UNIFILの存在・活動はいずれの当事者にとっても不満を抱かせるものだった。イスラエル・アメリカ側からは、レバノン国内で軍事力を擁する主体をレバノンの正規軍に限るとの名目でレバノンの反イスラエル抵抗運動の武装を解除するより強力な平和維持活動を望まれる。レバノン側からは、イスラエルによる領域の侵犯を全く制止できない中で抵抗運動の行動のみを抑制する存在とみなされがちである。UNIFILに部隊を派遣する諸国にとっても、長年紛争当事者から歓迎されず、紛争が激化した際はUNIFIL自体が攻撃対象とされて多くの犠牲を払っている。

 現時点でイスラエル軍の地上部隊はレバノン領の奥深くに侵入していない模様で、イスラエルからUNIFILに対する要求や侵害行為は本格的な地上侵攻の準備段階とも思われる。国連やUNIFIL参加国からはイスラエルへの非難が高まっているものの、2023年10月以来の展開に鑑みると、いかなる主体もイスラエルの行動や要求を制するのに有効な行動はとらないだろう。

(協力研究員 髙岡 豊)

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