中東かわら版

№83 リビア:東部政府が原油輸出を再開、産油量の増加

 2024年10月3日、リビア東部を拠点とするハマード内閣(東部政府)は、全ての油田や石油輸出港における不可抗力状態を解除し、原油生産・輸出を再開させると発表した。

 輸出停止の背景には、西部トリポリ拠点の国民統一政府(GNU)と東部政府間でリビア中央銀行の総裁人事をめぐる対立があった。GNUの総裁人事への介入を受け、リビアの大分部の石油施設を掌握するリビア国民軍(LNA)と連携する東部政府は、GNUに圧力をかけるため、8月26日に全ての石油生産・輸出を停止した。その後9月26日、国連の仲介により、両政府はナージー・イッサー元中銀幹部を新総裁に迎えることで合意した。東部拠点の代表議会(HOR)も30日に同人事を承認したため、原油輸出の再開に向けた準備が進み始めた。

 東部政府の石油輸出の再開表明を受け、リビア石油総同盟は10月8日、南西部のシャララ油田を含む、全ての油田で生産が再開したと発表した。リビア国営石油会社によると、産油量は8月28日の59万バーレル/日(bpd)から、10月9日には115万bpdまで増加した。

評価

 リビアの国内勢力が東西に分裂する紛争下、リビア中央銀行が最大の財政収入源であるエネルギー収入の支出を監督することから、その管理権が度々争点となってきた。2014年、「1国2政府」状態の流れに沿って、東部勢力が東部ベンガジに独自の中銀を創設した結果、リビアで2つの中銀が存在するに至った(その後、2023年8月に再統合)。 

 東部勢力は現在、大部分の石油施設を管理下に置くため、石油生産・輸出活動の動向に直接影響を与えることが可能である。他方、東部勢力が石油施設を掌握しても、石油収入の恩恵を直接享受できない事情がある。それは、カッザーフィー政権期から続く石油売買の決済制度と石油の違法売買を禁じた国連安保理決議があるからだ。現行の決済制度では、輸出で得られる石油収入はGNUの支配地域にあるトリポリ拠点の中央銀行に送金されるため、東部勢力はトリポリの中銀総裁との協力が不可欠となる。

 原油輸出が再開した一方、リビア紛争自体が解決したわけでないため、東部勢力はGNUを揺さぶる手段として、この先も輸出停止を政治的カードに利用していくと考えられる。過去にも、戦況で有利な立場を維持するため(2020年1~8月)、また西部勢力から譲歩を得る目的で(2022年4~7月)、石油輸出を度々妨害してきた。リビア石油産業が著しく不安定化すれば、リビア産原油を輸入する欧米諸国や中国のエネルギー調達にも悪影響を及ぼすだろう。

 

【参考】

「リビア:原油輸出の再開に向けた動き」『中東トピックス』T24-06。※会員限定。

(主任研究員 高橋 雅英)

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