№82 チュニジア:大統領選挙の暫定結果、サイード大統領の再選
2024年10月6日に大統領選挙が行われ、独立最高選挙機構(ISIE)が8日、暫定結果を発表した。2期目を目指すサイード現大統領が約91%の得票で再選を果たした。
チュニジアでの大統領選挙の実施は2019年から5年ぶりとなり、サイード大統領が2021年7月に政治的権力を掌握して以降、初めてとなる。今回の大統領選挙にはサイード大統領のほか、人民運動党のザヒール・マグザーウィー党首やアージムーン(決心)党のアヤーシー・ザマール党首も立候補した。最終結果は11月9日までに確定する予定である。大統領選挙の暫定結果は、以下の通りである。
(1)投票総数や投票率など
有権者登録数 |
9,753,217 |
投票総数 |
2,808,548 |
無効票数 |
119,140 |
投票率 |
28.8% |
(2)各候補者の得票
候補者名 |
得票数 |
得票率 |
カイス・サイード |
2,438,954 |
90.69% |
アヤーシー・ザマール |
197,551 |
7.35% |
ザヒール・マグザーウィー |
52,903 |
1.97% |
(出所)ISIEをもとに筆者作成。
評価
大統領選挙に先立ち、サイード大統領の再選を後押しするような状況が生まれていた。選挙への出馬資格審査で、元ナフダ党員のメッキー労働実現党党首や、ベン・アリー政権期の公衆衛生相であったザナーイディーなど多くの候補者が排除された。また候補者の1人、ザマールも立候補時に必要な推薦書を偽造した罪で禁固刑の判決を受けるなど、選挙運動を十分に行えなかった。加えて、サイード政権は9月12~13日に組織的動員力を持つナフダ党の党員97人以上を一斉逮捕し、反政府デモや選挙ボイコット運動を封じ込めようとした。一方、特段支障なく出馬できたマグザーウィーは、サイード大統領主導の政治プロセスを支持する立場である。低投票率に関しては、多くの国民がサイード政権の不透明な選挙運営に賛同していない点が指摘できる。
今般の再選により、サイード大統領は最長2029年まで政権を維持できる見通しであるが、大統領の独断による経済政策方針がこの先もチュニジア経済に混乱をもたらすと予想される。IMFの新規融資を拒否するサイード大統領は、現在の経済・社会的課題に対処するために国内の財源を活用すると主張してきた。そして財政赤字を補填するため、短期国債や市中銀行の協調融資(シンジケートローン)などによって国内から資金調達を図った。しかし、国内債務が2019~2023年の間に74%増加するなど、チュニジア経済は負のスパイラルに陥っている。今後もサイード政権が経済状況を劇的に立て直せる可能性が低いことから、サイード政権の長期化がチュニジアでのビジネス機会の縮小につながる恐れがある。
(主任研究員 高橋 雅英)
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