中東かわら版

№81 シリア:レバノンからの入国者が急増

  2024年9月下旬にイスラエルがレバノンに対する攻撃を強化して以降、レバノンから避難してシリアに入国する者が急増した。これらの者の中には、シリア紛争を避けてレバノンに避難したシリア人が多数含まれている。10月9日付『ワタン』紙(シリアの民間の日刊紙)によると、イスラエルの攻撃を受けてシリアに入国したレバノン人は約9万4000人、シリア人避難民の帰還者は約24万4000人に達した。同7日付『シャルク・アウサト』紙(サウジ資本の汎アラブ紙)によると、UNHCRはこれらの者への支援のため4億6000万ドルの資金が必要と見積もっているが、UNHCR自身の資金不足もありシリアでの支援のために支出した資金は必要額の27%にとどまっている。また、諸外国による援助の提供も滞っており、これまでに報道で確認できるのはイランによる援助物資輸送機2機の到着、シリアに駐留するロシア軍による食糧や医薬品の提供、イラク赤十字社による物資の陸送にとどまっている。

評価

 レバノンからの避難民の救援や援助については、シリア国内での受け入れのための支援だけでなくシリア経由でのレバノンへの物資の輸送、そしてレバノンからシリアへの避難民の移動そのものが著しく困難になっている。困難の原因はイスラエルによるレバノンへの攻撃で、イスラエルによる日常的な攻撃はシリアにも広がっている。攻撃はシリア領内での援助活動にも及んでおり、4日にはダマスカス・ベイルート間の街道への爆撃による車両の通行の遮断、6日にはホムス市近郊で援助物資の輸送車両が攻撃され、援助職員3人が負傷する事件も発生している。

 シリアでは、2023年10月7日以来の紛争の勃発以前からシリア紛争とそれに伴う欧米諸国による経済封鎖に起因する、物価の高騰や人民の生活水準の低下が深刻化していた。電力や燃料の供給も不十分な上、インターネットの通信速度の低下のような問題も顕在化している。ここに、数十万人のレバノンからの避難民・帰還者を受け入れることにより、事態は一層悪化している。すでに食糧品の退蔵や値上がりについての報道も見られる。問題の根本は、シリア紛争についての各国の政治的な対立にあるため、シリアに入国した避難民・帰還者への支援は、国際機関を通じた応急処置的なものにとどまるだろう。

(協力研究員 髙岡 豊)

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