中東かわら版

№80 ヨルダン:下院選挙の実施とハッサーン新内閣の発足

 2024年9月10日にヨルダンで下院選挙が実施され、最大野党のイスラーム行動戦線(IAF;母体はヨルダン・ムスリム同胞団)が全138議席中31議席を獲得し、議会第1党となった。その後、2020年10月から政権運営を行ってきたハサーウナ首相は辞任を表明した。

 これを受け、アブドッラー2世国王はハサーウナ内閣の総辞職を認め、ジャアファル・ハッサーン新首相に新たな内閣の組閣を命じた。ハッサーン新内閣は9月18日に王宮令によって承認された。閣僚リストは、以下のとおりである。

 

表 ハッサーン内閣の閣僚リスト 

首相兼国防相

ジャアファル・ハッサーン

前国王担当執務室長、元副首相兼経済問題担当国務相

副首相兼外務・移民相

アイマン・サファディー

2017/1~外相、2020/10~副首相を兼務

水・灌漑相

ラーイド・アブー・サウード

2023/9~

公共事業・住宅相

アフマド・マーヒル・アブー・サマン

2022/10~

地方行政相

ワリード・マスリー

元地方自治相兼運輸相

政府広報担当相

ムハンマド・ムーマニー

元メディア担当国務大臣

法相

バッサーム・タルフーニー

元法相

観光・遺跡相

リーナー・アンナーブ

元観光・遺跡相、前駐日大使

農相

ハーリド・ハニーファート

2021/3~

産業・貿易・供給相

ヤアルブ・クダー

前ヨルダン企業庁(JEDCO)長官

エネルギー・鉱物資源相

サーリフ・ハラーブシャ

2021/10~

経済問題担当国務相

ムハンナド・シャハーダ

元投資担当国務相

国務相

アフマド・ウワィディー

元法律問題担当国務相

教育相兼高等教育・科学研究相

アズミー・マハーフザ

2022/10~

投資相

ムサンナー・ガラーイバ

元デジタル経済・起業担当相

ワクフ・イスラーム聖地担当相

ムハンマド・ハラーイラ

2019/11~

内相

マージン・ファラーヤ

2021/3~

保健相

ファラース・ハワーリー

2021/3~

社会開発相

ワファー・バニー・ムスタファー

2022/10~

環境相

ムアーウィヤ・ラダーイダ

2021/10~

外務担当国務相

ナーンシー・ナムルーカ

前法律問題担当国務相

計画・国際協力相

ザイナ・トゥーカーン

2022/10~

運輸相

ワサーム・タフタムーニー

2023/9~

政務・議会担当相

アブドゥルマナアム・ウーダート

元下院議長

首相府担当国務相

アブドッラー・ウダワーン

元首相府官房長

法律問題担当国務相

ファイヤード・クダー

前ヨルダン大学法学部学部長

労働相

ハーリド・バッカール

前上院議員

財務相

アブドゥルハキーム・シブリー

前財務省事務次官

文化相

ムスタファー・ラワーシダ

前上院議員

公的部門発展担当国務相

ハイル・アブドッラー・アブー・サイーリーク

元下院経済・投資委員会委員長

青年相

ヤザン・シャダイファート

下院議員

デジタル経済・起業担当相

サーミー・スマイラート

前通信会社ヨルダン・オランジュ副CEO

 (出所)「Jordan Times」など各種情報をもとに筆者作成。 

 

評価

 まず下院選挙では、同胞団系のIAFが前回選挙(2020年)で5議席しか獲得できなかったが、今回の選挙で議席数を大幅に増やした。その要因の1つとして、ヨルダン・ムスリム同胞団がイスラエルのガザ侵攻に対するデモを主導し、ガザ支援に注力してきたことが挙げられる。こうした取り組みが、ヨルダン国民の多数を占めるパレスチナ系住民からの支持につながった可能性がある。ただIAFは躍進したものの、現憲法では国王が議会の解散権や政府の任命権などの大きな権限を持つため、ヨルダン内政へのIAFの影響力は限定的であるだろう。

 次にハッサーン新内閣については、前内閣からの留任者や閣僚経験者が大半を占めることや、歴代政権と同じく実務者内閣である点から、独自色は特段見られない。こうした中、ヨルダン政府の優先課題として、国内経済の立て直しや麻薬の密輸問題、ヨルダンを取り巻く不安定な地域情勢への対応がある。特にガザ危機はヨルダンの安全保障を大きく揺るがしており、イスラエル・イラン間の衝突がヨルダン国内にも被害をもたらす危険性がある。また軍事作戦を続けるイスラエルとの関係を維持しているため、ヨルダン国民や諸外国からの批判の矛先が今後、ヨルダン政府に向く恐れもあるだろう。

 

【参考】

池端蕗子「ガザ危機が揺るがすヨルダンの安全保障――2023 年10月7日以降のパレスチナ問題対応」『中東研究』第551号

(主任研究員 高橋 雅英)

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