№79 イスラエル:地域情勢の悪化を受け、沖合ガス田の拡張事業が中断
2024年10月6日、米国のシェブロン社とイスラエルのニューメッド・エナジー社及びレシオ・エナジーズ社の3社は、ガザ戦争に伴う治安情勢の悪化を理由に、リバイアサン・ガス田拡張事業を2025年4月まで6ヶ月中断すると発表した。リバイアサン・ガス田は北部ハイファから西に約130kmの深海にあり、イスラエルの3つの沖合ガス田のうち最大規模のもので、生産された天然ガスの一部はエジプトとヨルダンに輸出されている。
操業主体の上記3社は今年6月、リバイアサン・ガス田の生産量を現在の年間12BCM(10億立方メートル)から21BCMに増加させるとともに、同ガス田から洋上ガス生産プラットフォームへの3本目の海底パイプラインを敷設し、輸出能力を拡大させる計画(総費用4~5億ドル)を承認した。
なお3社は、ガザ戦争の進展次第で拡張計画が更に遅延する可能性を示唆している。
評価
イスラエル沖合のガス田開発は、2023年10月からのガザ戦争の影響が懸念されながらも、米英企業の支援を受け、既存ガス田の増産計画や新規ガス田の開発計画が進められてきた。
しかし今般、リバイアサン・ガス田拡張事業が中断に至った背景には、イランによるイスラエル本土への攻撃を受け、安全上の懸念が更に高まったことがあると考えられる。10月1日にイランがイスラエルに弾道ミサイルを用いて攻撃を実施した後、シェブロン社は予防措置として、リバイアサン及びタマル両ガス田の生産を一時的に停止した。翌2日に生産活動が再開されたものの、イランがイスラエルの軍施設を正確に射止めたことや、イスラエルのミサイル防衛システムによる迎撃が不十分であったことは、ガス田事業継続にとって不安要素となった。
この先、カリシュ・ガス田の操業も安全性の問題に直面するだろう。2023年、イスラエルのガス生産量は、リバイアサン及びタマル両ガス田で前年時より減少した一方、北部ハイファ沖80kmに位置するカリシュ・ガス田の生産量が前年の0.29BCMから4.92BCMに大幅に増えた(出所:イスラエル・エネルギー省)。
しかし、2022年にヒズブッラーが、2023年12月にイラク・イスラーム抵抗運動がカリシュ・ガス田への無人機攻撃を試みるなど、同ガス田は「抵抗の枢軸」勢力の攻撃対象である。イスラエルの天然ガス産業は貴重な外貨獲得源かつ、自立的な電力政策を支える要であることから、イスラエルを敵視するイランや周辺諸国の武装組織がこの先、イスラエルのガス田事業の進展を妨害するような武装活動を活発化させる可能性があるだろう。
(主任研究員 高橋 雅英)
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