№75 イスラエル:「抵抗の枢軸」諸派に対する報復の激化
2024年9月27日、イスラエルのベイルート郊外への空爆でヒズブッラー指導者のハサン・ナスルッラー師が死亡した。これを受けてヒズブッラーはイスラエルに対してロケット攻撃を実施、またイエメンのアンサールッラー(フーシー派)を中核とする国民救済政府軍は、テルアビブに弾道ミサイル「パレスチナ2」を、アシュケロンにドローン「ヤッファ」を発射した。翌28日も、国連総会からネタニヤフ首相が帰国したタイミングを狙ってベン・グリオン国際空港に「パレスチナ2」を発射した。この他、イラクの「イラクのイスラーム抵抗」(親イラン民兵の合同名義)が、ゴラン高原、エイラート、テルアビブの軍事施設をドローンで攻撃したとの声明を、28~29日にかけて発表した。
以上を受けて、イスラエルは、ヒズブッラー幹部を標的としたベイルート郊外への空爆を継続し、29日には100名以上の死者が新たに発生した。また同日、アンサールッラーが支配するフダイダ港近くの石油貯蔵庫や発電所を空爆した(イスラエルによるイエメン空爆は今年7月20日以来)。なお一連の攻撃によるイスラエル側の死者は報告されていない。
評価
ハマースを中心とするガザ地区諸派とイスラエルとの戦争が、ガザ地区諸派を支援する「抵抗の枢軸」とイスラエルとの戦争に拡大している。徹底した報復攻撃を通じてイスラエルが強硬路線を進む背景として、以下の諸点が挙げられよう。
まずは政権への支持の回復である。戦時内閣の瓦解や人質交換交渉の膠着にもかかわらず、ハマース幹部殺害等の分かりやすい戦果を経てネタニヤフ内閣への支持が回復していると、イスラエル国内での世論調査が伝えている。ネタニヤフ首相からすれば、軍事オプションを継続する必然性が高まったことになる。
またガザ地区での軍事展開と比べ、ヒズブッラーとアンサールッラーへの攻撃は、国際社会から見たイスラエルの加害者性がやや弱い。さらにガザ戦争では人質奪還を目的に必要とされた高リスクの地上戦が、レバノン・イエメンではマストでない。イスラエルからすれば、「抵抗の枢軸」諸派の自国に対する脅威度が高まる中、以上の状況は同諸派に対する徹底攻撃に向けたグリーンライトとなりうる。
最後に、米国のレームダック化がある。残り半年を切ったバイデン政権は、イスラエルからすれば既に無視が可能な相手であり、さらに新大統領が誰になるか、各候補の中東政策がどうなるかはまだ不透明な段階である。目下ネタニヤフ首相は、米国が機能しない間の「駆け込み戦争」を行えるタイミングにある。
(研究主幹 高尾 賢一郎)
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